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プロフィール

田中ようた(ぼくは16角形)

Author:田中ようた(ぼくは16角形)
著者:田中ようた(ぼくは16角形)

漫画家・イラストレーター

お仕事依頼などはyotatanaka★gmail.comにお願いします。
(スパム対策です。★を@に変えてください)


mixiに登録しました。

僕は地獄にしか友達がいないので、人間の友人がほしいです。
よかったらマイミクになってください。

私については
私の師匠であり元月刊ガロ副編集長の白取様の、 「白取特急検車場」

こちら 「ブロ栗」様


こちら 「un-soka」様


をごらんください。



「ぼくは16角形」というサイトがいくつかあるみたいですが、私が本物です。


「ぼくは16角形」のペンネームで1996-2000まで「月刊ガロ」に投稿。
「16角形」とか「16」とか「ぼくジュー」とか、呼びにくいので、
ペンネームを「田中ようた」に変えようと思ってます。

大阪在住。暴力マンガと回想記を主に描いています。
近々上京予定?


このブログはお金目的でやるつもりはないので、
アフィリエイトは一切貼りません。

どれだけマンガを更新しても僕には一円も入りませんが、
みなさんが面白いと思っていただければ
これほどうれしいことはありません。

ペンネーム考え中。

「ぼくは16角形」というペンネームで描いてました。


1996年より漫画執筆を開始。

過去の作品や新作などを更新していけたらと思っています。

雑誌掲載履歴

雑誌掲載履歴です。 名称未設定-2


あたしミクシィやってた。
サナの日記読んでた。サナが、彼氏とうまくいってないって日記。
ってかもうその内容何度も電話で聞いたしメールでも聞いたし会ってるときもその話ばっかだし
わざわざまたミクでも聞かされるの?って思った。
ぶっちゃけどうでもいい内容。
サナって超ワガママで、彼氏に嫌われてるのは誰がどう見てもサナのせい。
だけど足跡ついてたし、とりあえずコメント残しとかなきゃって思った。
あたしはキーボードを打つ手を引っ込めた。
いきなりブラウザが立ち上がって、パソコンの画面をいっぱいに占領したからだ。
新しく立ち上がった真っ黒なページには、赤い色で、「殺人代行」って書いてあった。
ページの真ん中に、写真が載ってた。
はじめは、何の写真かわからなかったんだけど、よく見ると、それはバラバラになった人間。
パーティーで使うみたいな大きなお皿の上に、切断された足とか、腕とか、乳房とかペニスが山積みにされてた。
あたしはとっさに目を逸らした。
サイアク。
胃の奥がツーンとして、さっき食べたベーコンレタスバーガーとマックシェイクがせりあがってくる。
ヒロはヤンマガ読んでた。あたしのベッドの上で。
ヒロはバカで、こういうの大好きだから、見せちゃだめだって思った。
だけど閉じようと思っても、消えない。
ブラウザの×ボタンを何回押しても、そのページは消えなかった。
「どしたぁ?」
ヒロが首に手を回してくる。そのまま抱きしめてほしい。
「ん、なんでもない」
「お、なにこれ」
「わかんない、いきなり開いたの」
「すげー、なにこれ。はは。何?殺人代行サイト?この写真、本物?おい、入ってみろよ」
「やだ、ヒロやめよ?なんか怖いよ」
ヒロはあたしからマウスを奪った。
写真にカーソルを乗せると矢印が指のマークに変わる。クリック。
ページが切り替わった。
あたしは目をそらす。赤い文字で何か書いてあったけど、読みたくもない。
「なになに…、弊社は殺人代行業者です。あなたの周りに殺したい人間はいませんか?
弊社が代行します。料金は一切かかりません。わからないことがあればメールでお問い合わせください…、
ははっ、なんだこれ」
「ちょっと、気持ち悪いよ。もうやめようよ」
「おい、ためしに送ってみようぜ。えっと、名前を入力してください、か。
川瀬美樹と。
…ははっ!すげー、殺人方法まで選べるんだってよ!
えっと、頚動脈切断、撲殺。毒殺。おまえ、どれがいい?」
「やめて。お願い。ホントにつまんないから」
ヒロがあたしの顔を横から覗いた。「ミキちゃん、怒ってんの?」
あたしは椅子から降りる。「ふざけるのやめて。冗談になってないよ。こんなサイトに彼女の名前入れるって、サイテーだよ」
「ばっか。こういうの、どーせ2ちゃんの連中の仕業だろ?
よくあるじゃん。おいおい、まさか、こえーの?ミキミキちゃーん。何年生でちゅか?」
「怖くないよ。ヒロのほうが怖いんじゃないの?」
「バカ、ふざけんな」
「あー、こわいんだー。やーい」
「怖くねーよ。ナメんな」
「だったら、ヒロの名前入力すれば?」
「わかったよ」
ヒロはフォームに自分の情報を入力し直した。田島博人。二十歳。専門学生。
フォームの入力が終えると、ヒロは送信ボタンを押した。
青いバーが伸びていくけど、画面がなかなか切り替わらない。
「おまえんちのパソコンおせーよな」
「きらい!きらい。キライ!」
好き。
バカヒロにプーさん投げる。キティちゃん投げる。全部よけられる。
相手して。あたしを見て。ねえ、もう仲直りなの?さっきのケンカ、あのキスでもう解決?
目覚まし時計投げようとしてやめる。
「暴力女。おまえ一日に何回泣くの?」
ヒロはパソコンから目を離さない。
「これフリーズしてるわ」
ヒロはウィンドウズを再起動させる。
「ねえ。やっぱりちゃんとお話しよ?こんなの。ヒロのそういうとこ嫌いだよ」
「俺もお前なんか嫌いだよ」
「じゃあ、やっぱりアツコのとこ戻ればいいじゃん」
言ってから、後悔する。思わず口を両手でふさぐ。
だめだ、あたし。また言っちゃった。禁断の三文字。アツコ。
さっきもう言わないって約束したのに。
沈黙。
この沈黙、大嫌いだ。最近はこればっか。
ヒロの横顔。黙ってるヒロ。きっと怒ってる。怖い。でもかっこいい。超好き。
アツコのこと持ち出したらダメって知ってる。さっきもカラオケボックスでそれが原因で、別れる別れないの大ゲンカに発展した。
ヒロは黙ったまま。怖い。怒らないで。嫌だよ。アツコのとこなんて行かないで。もっとやさしくしてほしいだけなんだ。
「ヒロ?」
「おい、なんだよコレ?」
「え?」
あたしはパソコンの画面を見た。
パソコンを再起動させたのに、アドレスも入力してないのに、またあのサイトが開いてる。
ヘンだ。
だって普段なら、パソコンを立ち上げたら、プーさん。
プーさんが蜂蜜に手を突っ込んでる絵のデスクトップが開くはずだ。
真っ黒な画面に、赤い文字で、
「以下の内容で、あなたの注文を受け付けました。
殺害対象 田島博人 十九歳 執行内容・生首切断 執行日六月十五日
我々は責任を持って、確実に田島博人を殺します。
折り返し弊社から依頼者にメールが届きます。しばらくお待ちください」って書かれてる。
あたしたちは、しばらく黙って文章を読んだ。
あたしの目は(そしてたぶんヒロも)、「田島博人 生首切断」の文字に釘付けになっていた。
(確実に田島博人を殺します)
(確実に)
あたしは何か言おうと思ったけど、言葉が出てこない。
先に口を開いたのはヒロ。
「ははっ!」笑った。乾いた笑い。なんだかいつものヒロの笑い方じゃなかった。
「おまえ、これウイルス入ったんじゃねえか?パソコンで何見てたの?」
「ミクシィやってただけだよ。そしたらいきなりこれが開いたの」
ヒロはマウスを動かして、ブラウザの×ボタンを押した。サイトが消えない。
マウスを連打する。ヒロは「何で消えないんだよ」ってすごく小さい声で言った。
「ヒロ、もういいよ」
「おい、ウイルスだ。ミキ、ウイルスだわコレ。つまんねーの。ウイルス超うぜー」
(確実に田島博人を)
(生首切断)
「ヒロ。もうやめよ?パソコン消すね」
ヒロは机の上のペプシコーラのペットボトルをつかんで、一口飲んだ。
ヒロがマウスを貸してくれないから、あたしはパソコンを強制終了しようと思って電源ボタンを押した。
「あれ?」
消えない。ボタンを何度押しても、パソコンが落ちない。
何で?何でだろう。
あせって、あたしはコンセントを抜いた。
だけど、それでもパソコンは消えなかった。
画面はそのまま。
(確実に田島博人を)
何で?全身に汗がふきだしてくる。
あたしはヒロに抱きついた。
「ヒロ。何で?」
「ウイルスだよ。ウイルス」
「ウイルス?じゃあ、コンセント抜いたのになんで消えないの?」
「そりゃお前、ウイルスのせいだよ。おまえ、明日、電気屋持っていけよ。な」
突然パソコンから女性の叫び声がして、あたしたちは体をびくつかせた。
ノートパソコンの小さなスピーカーから聞こえてるなんて思えないくらい大きな声。
動画が再生されている。女の人が数人の男に囲まれてる。チェーンソーで腰の辺りを切断されそうになってる。
勝手に、あたしの奥歯がカタカタ鳴る。体が震える。
見なければいいのに、画面から目をそらすことができない。
女の人の上半身と下半身が真っ二つに切断されて、画面がフェイドアウトする。
次に、文字が浮かび上がる。
「先月行った活動内容です。
このように、弊社は多種多様な殺人技術を持っています。
ご興味のある方は、ぜひご相談ください。ありがとうございました」

動画の再生が終わると、ブラウザが閉じた。
いつもの、プーさんのデスクトップに戻った。
あたしたちは顔を見合わせた。
ヒロがマウスをいじる。インターネットを開く。いつものヤフーのページ。
itunesを開いたり、マイドキュメントを開いたり、ヒロは落ち着かない様子でいろいろいじくった。
「直ったな」
「わかんない」
「直ったみたいだな。ほらみろやっぱりウイルスだったんだわ」
「抱きしめて」
「はぁ?」
「いいから!」
ヒロがぎゅっと抱きしめてくれた。
とたんに、涙があふれてきた。
「なんだよ、おまえ、もしかして、今の怖かったの?」
返事ができない。
ヒロは大きな両手であたしの髪の毛をくしゃくしゃにした。

目が覚めた。夢は見てなかった。いや、見てたと思うけど、内容は覚えてない。
真っ暗な部屋。
布団にもぐる。ヒロ、コンドームつけたままだ。
バカ。でもかわいい。寝息といっしょに、ヒロの胸が膨れ上がったり、縮んだりする。
たくましい胸。のどの上で、シルバーチョーカーが鈍く光ってる。
ヒロの頬に軽くキスをする。
のど乾いたな。今何時だろう?
天井を見つめる。シミがある。あたしとヒロ、付き合いだしてもう半年だ。
昨日カラオケボックスでケンカしたことを思い出す。ごめんね。
でも、さみしかったんだ。アツコの着信残ってて、心配だったし。
でも、アツコのあのメールの意味、どういうことなの?いまだにわからない。
火曜日楽しかったねって何?火曜日に何かあったの?
ヒロ、火曜日は毎週、バンドの練習だよね。
まさか、そのときにアツコと会ってたの?
あたしダメだ。心配ばっかしてる。
だって、もともと付き合ってもらえるなんて思ってなかった。
今も、もしかして遊ばれてるんじゃないかって思ってる。
大好きな人と布団にいっしょにくるまって、寝顔を眺めるのが夢だった。今、こうして夢がかなってる。
だけどまた涙が出てくる。ヒロの髪の毛。やわらかくて、さらさらで、肩まである茶色い毛。
信じていいんだよね?
でも、あの内容が忘れられないんだ。
神様、お願い、消して。記憶を消して。
ヒロ、あたしを好きだって言って。
あたし、やっぱりヒロのことを信じられないみたい。
机の上で、ヒロの携帯がブーンブーンと二回うなって、止まった。
メールだ。アツコ。絶対アツコ。なんだよアイツ!キモいんだよ!
「あとでメールするねん♪」って書いてたし。
あたしは机に手を伸ばしてケータイを取った。
そのまましばらく悩んだけれど、ケータイを開いた。
あたしは悪くない。悪いのはアツコ。
画面が光って、まぶしくて目を細める。
「新着Eメール 一件」の文字。
見たらバレるよね?
だって新着メール、開いたら新着じゃなくなっちゃう。
心臓が、ドクン、ドクンっていってる。
悩んだけど、あたしはメールを開いた。
「殺人代行サイトです。先ほどはメールありがとうございました。
プランの変更などございませんでしょうか?
さて、今後の予定で」
画面に表示されていた文字はここまで。
メールはまだ続いてるみたい。だけど、方向キーを回して続きを読むことができない。
指が凍って、動かないから。
彼氏のケータイ勝手に開いて背徳感でいっぱいだったあたしの心臓が、
これ以上刺激はいらない助けてくれって叫んでる。
胸がひどく苦しい。息ができない。
ヒロが目を覚ましてくれなかったら、あたし呼吸困難で死んでたかもしれない。
何してんだよおまえって言って、ヒロがあたしの手からケータイを奪った。
そのまま、ケータイ閉じて、寝てくれたらよかった。
でもヒロはねぼけたまま、そのメールを読んだ。
ケータイの光がヒロの顔を反射してて、その表情がゆっくりと変わるのがわかった。
ヒロは怒ったら右の眉毛がピクピク痙攣する。
「何だよ、コレ?」
「知らない」
「ってか、おまえ、何で俺のケータイ見てんの?見んなっていっただろ?」
「だって、心配だったから。たぶん、アツ…」
ほっぺたに熱いのを感じた。中学のころ、部活の練習中にバレーボールが顔面に当たったのを思い出した。
それがボールじゃなくてヒロの手のひらだって気づくまで、時間がかかった。
脳が揺れて、奥歯が頬の裏を切って、口の中に鉄さびくさいにおいがする。
「二度と見んなっていっただろ?」
大好きな人に拒絶されるって、すごく怖い。本当に怖いことだ。
涙が出てくる。熱い涙が、頬を伝う。右のほほがジンジンする。
謝る。「ごめんなさい」鼻水だらけで、言葉になってない。
もう一度謝る。ごめんなさい。許して。もう見ませんから。
ヒロはあたしのことなんか視界に入ってなかった。
ただケータイの画面見て、ガタガタ震えていた。
「ってかさあ、なんでメールアドレス知ってんのコイツ?
俺さっき」
ヒロはそこで一瞬ツバを飲んでから、
「あの」
沈黙。
「あのサイトで」
もう一度ツバを飲む。
「ケッ、ケータイのメアド入力してたか?」と、ゆがんだ微笑みを浮かべた。
あのサイト。
ヒロは、口にしたくなかった。あたしも、そんな言葉聞きたくなかった。あのサイト。
ヒロはたぶん、あのサイトを意識に戻したくなかった。
あのサイトや、昨日の夜の一連の出来事は、あたしたちの間ではすでに終わったことだった。
どこかのバカの、タチの悪いイタズラ。2ちゃんねるの、悪意のある連中の仕業。
それで片付いた。
あのサイトが閉じて、プーさんのデスクトップに戻って、現実に戻った。
なんだかんだ言ってヒロはやっぱりビビってたし、実際あたしは本当に怖かった。
冗談で終わらせるには、ひどすぎる恐怖だった。
あのあと、あたしたちは現実に戻るための作業をした。
子供のころ真夜中お化けを見た、それをお母さんに話したら、
ただカーテンが揺らめいていただけでしょって笑われた。
シャンプーをしてるとき背後に気配を感じて、急いで泡を洗い流して振り返っても、
結局誰もいなかった。
心霊写真は結局パソコンで加工して作られてるんだって知った。
ネッシーはラジコンだった。
だから、電源を何度押してもパソコンが消えなかったけれどそれは本当にボタンが壊れてたからだったし、
コンセントを抜いても画面が消えなかったのはノートパソコンの充電池を抜いてなかったからだった。
ノートパソコンの充電池を外すと電源は切れた。
ちっとも不思議な現象でも何でもなかったんだって二人で納得しあった。
テレビをつけて、ダウンタウンのDVDを見たらもうすっかり忘れた。
エッチして、抱き合って寝た。
朝になれば、もう終わったこと。後々、面白かったねって、笑えること。処理された出来事。
でもできれば、当分は口にしたくない出来事。

メールは、まだあのサイトがあたしたちの人生で続いていることを教えてくれた。
(生首切断)
(確実に)
(確実に)

あたしの呼吸は荒くなる。息を止めてみる。油断すると、ただの涙が号泣と嗚咽に変わろうとするから。
泣いたら、またヒロに怒られるから。
「おい、答えろってミキ」ヒロが言う。なんだかセリフみたいな口調。「俺、さっき、あの…、メアド登録したか?」
ヒロは、あのサイト、とはもう言わなかった。言いたくなかったんだ。
でもヒロは本当は、こう言いたかったと思う。あたしもそういってくれることを望んでた。
(なあミキ、俺さっきあの殺人代行サイトで)
殺人。絶対に口に出せない。今そんな言葉を聞いたら、あたしはおかしくなってしまうかもしれない。
だけど、心のどこかで、その言葉を聞きたがっている自分がいる。今の状況を認めてしまって、楽になりたいんだと思う。
「してないと思う」あたしは言う。「してないよ。絶対」
わかんない。あんまり覚えてない。だって、怖かったから、画面を見たくなかった。
だけど、メールアドレスなんて、入れてなかったと思う。
それより、その前の記憶が愛しい。
あたしのベッドの上で、ヤンマガ読みながら楽しそうに笑ってたヒロを思い出す。
あのときに戻りたい。いやできればもっと前。カラオケボックスに戻りたい。
ケンカしてたけど、今よりも一億倍マシ。
いや、もっともっと前がいい。ヒロと出会って二ヶ月目に戻りたい。
ディズニーランド。帰りのバスではじめてキスしてくれた。あのときに戻りたい。

(ケータイのアドレス入れる欄あったかどうか、
パソコン立ち上げてもう一度確かめてみよっか?)

そんなこと、できるわけがない。この暗闇の中で?
腰を切断された女性の叫び声が脳裏によみがえる。

でもわざわざ立ち上げる必要はなかった。
パソコンは勝手に立ち上がったからだ。

静寂を女性の叫び声が切り裂く。
「うわぁっ!」
今度はヒロがあたしに抱きついた。
文章 CM(0) 

あたしミクシィやってた。
サナの日記読んでた。サナが、彼氏とうまくいってないって日記。
ってかもうその内容何度も電話で聞いたしメールでも聞いたし会ってるときもその話ばっかだし
わざわざまたミクでも聞かされるの?って思った。
ぶっちゃけどうでもいい内容。
サナって超ワガママで、彼氏に嫌われてるのは誰がどう見てもサナのせい。
だけど足跡ついてたし、とりあえずコメント残しとかなきゃって思った。
あたしはキーボードを打つ手を引っ込めた。
いきなりブラウザが立ち上がって、パソコンの画面をいっぱいに占領したからだ。
新しく立ち上がった真っ黒なページには、赤い色で、「殺人代行」って書いてあった。
ページの真ん中に、写真が載ってた。
はじめは、何の写真かわからなかったんだけど、よく見ると、それはバラバラになった人間。
パーティーで使うみたいな大きなお皿の上に、切断された足とか、腕とか、乳房とかペニスが山積みにされてた。
あたしはとっさに目を逸らした。
サイアク。
胃の奥がツーンとして、さっき食べたベーコンレタスバーガーとマックシェイクがせりあがってくる。
ヒロはヤンマガ読んでた。あたしのベッドの上で。
ヒロはバカで、こういうの大好きだから、見せちゃだめだって思った。
だけど閉じようと思っても、消えない。
ブラウザの×ボタンを何回押しても、そのページは消えなかった。
「どしたぁ?」
ヒロが首に手を回してくる。そのまま抱きしめてほしい。
「ん、なんでもない」
「お、なにこれ」
「わかんない、いきなり開いたの」
「すげー、なにこれ。はは。何?殺人代行サイト?この写真、本物?おい、入ってみろよ」
「やだ、ヒロやめよ?なんか怖いよ」
ヒロはあたしからマウスを奪った。
写真にカーソルを乗せると矢印が指のマークに変わる。クリック。
ページが切り替わった。
あたしは目をそらす。赤い文字で何か書いてあったけど、読みたくもない。
「なになに…、弊社は殺人代行業者です。あなたの周りに殺したい人間はいませんか?
弊社が代行します。料金は一切かかりません。わからないことがあればメールでお問い合わせください…、
ははっ、なんだこれ」
「ちょっと、気持ち悪いよ。もうやめようよ」
「おい、ためしに送ってみようぜ。えっと、名前を入力してください、か。
川瀬美樹と。
…ははっ!すげー、殺人方法まで選べるんだってよ!
えっと、頚動脈切断、撲殺。毒殺。おまえ、どれがいい?」
「やめて。お願い。ホントにつまんないから」
ヒロがあたしの顔を横から覗いた。「ミキちゃん、怒ってんの?」
あたしは椅子から降りる。「ふざけるのやめて。冗談になってないよ。こんなサイトに彼女の名前入れるって、サイテーだよ」
「ばっか。こういうの、どーせ2ちゃんの連中の仕業だろ?
よくあるじゃん。おいおい、まさか、こえーの?ミキミキちゃーん。何年生でちゅか?」
「怖くないよ。ヒロのほうが怖いんじゃないの?」
「バカ、ふざけんな」
「あー、こわいんだー。やーい」
「怖くねーよ。ナメんな」
「だったら、ヒロの名前入力すれば?」
「わかったよ」
ヒロはフォームに自分の情報を入力し直した。田島博人。二十歳。専門学生。
フォームの入力が終えると、ヒロは送信ボタンを押した。
青いバーが伸びていくけど、画面がなかなか切り替わらない。
「おまえんちのパソコンおせーよな」
「きらい!きらい。キライ!」
好き。
バカヒロにプーさん投げる。キティちゃん投げる。全部よけられる。
相手して。あたしを見て。ねえ、もう仲直りなの?さっきのケンカ、あのキスでもう解決?
目覚まし時計投げようとしてやめる。
「暴力女。おまえ一日に何回泣くの?」
ヒロはパソコンから目を離さない。
「これフリーズしてるわ」
ヒロはウィンドウズを再起動させる。
「ねえ。やっぱりちゃんとお話しよ?こんなの。ヒロのそういうとこ嫌いだよ」
「俺もお前なんか嫌いだよ」
「じゃあ、やっぱりアツコのとこ戻ればいいじゃん」
言ってから、後悔する。思わず口を両手でふさぐ。
だめだ、あたし。また言っちゃった。禁断の三文字。アツコ。
さっきもう言わないって約束したのに。
沈黙。
この沈黙、大嫌いだ。最近はこればっか。
ヒロの横顔。黙ってるヒロ。きっと怒ってる。怖い。でもかっこいい。超好き。
アツコのこと持ち出したらダメって知ってる。さっきもカラオケボックスでそれが原因で、別れる別れないの大ゲンカに発展した。
ヒロは黙ったまま。怖い。怒らないで。嫌だよ。アツコのとこなんて行かないで。もっとやさしくしてほしいだけなんだ。
「ヒロ?」
「おい、なんだよコレ?」
「え?」
あたしはパソコンの画面を見た。
パソコンを再起動させたのに、アドレスも入力してないのに、またあのサイトが開いてる。
ヘンだ。
だって普段なら、パソコンを立ち上げたら、プーさん。
プーさんが蜂蜜に手を突っ込んでる絵のデスクトップが開くはずだ。
真っ黒な画面に、赤い文字で、
「以下の内容で、あなたの注文を受け付けました。
殺害対象 田島博人 十九歳 執行内容・生首切断 執行日六月十五日
我々は責任を持って、確実に田島博人を殺します。
折り返し弊社から依頼者にメールが届きます。しばらくお待ちください」って書かれてる。
あたしたちは、しばらく黙って文章を読んだ。
あたしの目は(そしてたぶんヒロも)、「田島博人 生首切断」の文字に釘付けになっていた。
(確実に田島博人を殺します)
(確実に)
あたしは何か言おうと思ったけど、言葉が出てこない。
先に口を開いたのはヒロ。
「ははっ!」笑った。乾いた笑い。なんだかいつものヒロの笑い方じゃなかった。
「おまえ、これウイルス入ったんじゃねえか?パソコンで何見てたの?」
「ミクシィやってただけだよ。そしたらいきなりこれが開いたの」
ヒロはマウスを動かして、ブラウザの×ボタンを押した。サイトが消えない。
マウスを連打する。ヒロは「何で消えないんだよ」ってすごく小さい声で言った。
「ヒロ、もういいよ」
「おい、ウイルスだ。ミキ、ウイルスだわコレ。つまんねーの。ウイルス超うぜー」
(確実に田島博人を)
(生首切断)
「ヒロ。もうやめよ?パソコン消すね」
ヒロは机の上のペプシコーラのペットボトルをつかんで、一口飲んだ。
ヒロがマウスを貸してくれないから、あたしはパソコンを強制終了しようと思って電源ボタンを押した。
「あれ?」
消えない。ボタンを何度押しても、パソコンが落ちない。
何で?何でだろう。
あせって、あたしはコンセントを抜いた。
だけど、それでもパソコンは消えなかった。
画面はそのまま。
(確実に田島博人を)
何で?全身に汗がふきだしてくる。
あたしはヒロに抱きついた。
「ヒロ。何で?」
「ウイルスだよ。ウイルス」
「ウイルス?じゃあ、コンセント抜いたのになんで消えないの?」
「そりゃお前、ウイルスのせいだよ。おまえ、明日、電気屋持っていけよ。な」
突然パソコンから女性の叫び声がして、あたしたちは体をびくつかせた。
ノートパソコンの小さなスピーカーから聞こえてるなんて思えないくらい大きな声。
動画が再生されている。女の人が数人の男に囲まれてる。チェーンソーで腰の辺りを切断されそうになってる。
勝手に、あたしの奥歯がカタカタ鳴る。体が震える。
見なければいいのに、画面から目をそらすことができない。
女の人の上半身と下半身が真っ二つに切断されて、画面がフェイドアウトする。
次に、文字が浮かび上がる。
「先月行った活動内容です。
このように、弊社は多種多様な殺人技術を持っています。
ご興味のある方は、ぜひご相談ください。ありがとうございました」

動画の再生が終わると、ブラウザが閉じた。
いつもの、プーさんのデスクトップに戻った。
あたしたちは顔を見合わせた。
ヒロがマウスをいじる。インターネットを開く。いつものヤフーのページ。
itunesを開いたり、マイドキュメントを開いたり、ヒロは落ち着かない様子でいろいろいじくった。
「直ったな」
「わかんない」
「直ったみたいだな。ほらみろやっぱりウイルスだったんだわ」
「抱きしめて」
「はぁ?」
「いいから!」
ヒロがぎゅっと抱きしめてくれた。
とたんに、涙があふれてきた。
「なんだよ、おまえ、もしかして、今の怖かったの?」
返事ができない。
ヒロは大きな両手であたしの髪の毛をくしゃくしゃにした。

目が覚めた。夢は見てなかった。いや、見てたと思うけど、内容は覚えてない。
真っ暗な部屋。
布団にもぐる。ヒロ、コンドームつけたままだ。
バカ。でもかわいい。寝息といっしょに、ヒロの胸が膨れ上がったり、縮んだりする。
たくましい胸。のどの上で、シルバーチョーカーが鈍く光ってる。
ヒロの頬に軽くキスをする。
のど乾いたな。今何時だろう?
天井を見つめる。シミがある。あたしとヒロ、付き合いだしてもう半年だ。
昨日カラオケボックスでケンカしたことを思い出す。ごめんね。
でも、さみしかったんだ。アツコの着信残ってて、心配だったし。
でも、アツコのあのメールの意味、どういうことなの?いまだにわからない。
火曜日楽しかったねって何?火曜日に何かあったの?
ヒロ、火曜日は毎週、バンドの練習だよね。
まさか、そのときにアツコと会ってたの?
あたしダメだ。心配ばっかしてる。
だって、もともと付き合ってもらえるなんて思ってなかった。
今も、もしかして遊ばれてるんじゃないかって思ってる。
大好きな人と布団にいっしょにくるまって、寝顔を眺めるのが夢だった。今、こうして夢がかなってる。
だけどまた涙が出てくる。ヒロの髪の毛。やわらかくて、さらさらで、肩まである茶色い毛。
信じていいんだよね?
でも、あの内容が忘れられないんだ。
神様、お願い、消して。記憶を消して。
ヒロ、あたしを好きだって言って。
あたし、やっぱりヒロのことを信じられないみたい。
机の上で、ヒロの携帯がブーンブーンと二回うなって、止まった。
メールだ。アツコ。絶対アツコ。なんだよアイツ!キモいんだよ!
「あとでメールするねん♪」って書いてたし。
あたしは机に手を伸ばしてケータイを取った。
そのまましばらく悩んだけれど、ケータイを開いた。
あたしは悪くない。悪いのはアツコ。
画面が光って、まぶしくて目を細める。
「新着Eメール 一件」の文字。
見たらバレるよね?
だって新着メール、開いたら新着じゃなくなっちゃう。
心臓が、ドクン、ドクンっていってる。
悩んだけど、あたしはメールを開いた。
「殺人代行サイトです。先ほどはメールありがとうございました。
プランの変更などございませんでしょうか?
さて、今後の予定で」
画面に表示されていた文字はここまで。
メールはまだ続いてるみたい。だけど、方向キーを回して続きを読むことができない。
指が凍って、動かないから。
彼氏のケータイ勝手に開いて背徳感でいっぱいだったあたしの心臓が、
これ以上刺激はいらない助けてくれって叫んでる。
胸がひどく苦しい。息ができない。
ヒロが目を覚ましてくれなかったら、あたし呼吸困難で死んでたかもしれない。
何してんだよおまえって言って、ヒロがあたしの手からケータイを奪った。
そのまま、ケータイ閉じて、寝てくれたらよかった。
でもヒロはねぼけたまま、そのメールを読んだ。
ケータイの光がヒロの顔を反射してて、その表情がゆっくりと変わるのがわかった。
ヒロは怒ったら右の眉毛がピクピク痙攣する。
「何だよ、コレ?」
「知らない」
「ってか、おまえ、何で俺のケータイ見てんの?見んなっていっただろ?」
「だって、心配だったから。たぶん、アツ…」
ほっぺたに熱いのを感じた。中学のころ、部活の練習中にバレーボールが顔面に当たったのを思い出した。
それがボールじゃなくてヒロの手のひらだって気づくまで、時間がかかった。
脳が揺れて、奥歯が頬の裏を切って、口の中に鉄さびくさいにおいがする。
「二度と見んなっていっただろ?」
大好きな人に拒絶されるって、すごく怖い。本当に怖いことだ。
涙が出てくる。熱い涙が、頬を伝う。右のほほがジンジンする。
謝る。「ごめんなさい」鼻水だらけで、言葉になってない。
もう一度謝る。ごめんなさい。許して。もう見ませんから。
ヒロはあたしのことなんか視界に入ってなかった。
ただケータイの画面見て、ガタガタ震えていた。
「ってかさあ、なんでメールアドレス知ってんのコイツ?
俺さっき」
ヒロはそこで一瞬ツバを飲んでから、
「あの」
沈黙。
「あのサイトで」
もう一度ツバを飲む。
「ケッ、ケータイのメアド入力してたか?」と、ゆがんだ微笑みを浮かべた。
あのサイト。
ヒロは、口にしたくなかった。あたしも、そんな言葉聞きたくなかった。あのサイト。
ヒロはたぶん、あのサイトを意識に戻したくなかった。
あのサイトや、昨日の夜の一連の出来事は、あたしたちの間ではすでに終わったことだった。
どこかのバカの、タチの悪いイタズラ。2ちゃんねるの、悪意のある連中の仕業。
それで片付いた。
あのサイトが閉じて、プーさんのデスクトップに戻って、現実に戻った。
なんだかんだ言ってヒロはやっぱりビビってたし、実際あたしは本当に怖かった。
冗談で終わらせるには、ひどすぎる恐怖だった。
あのあと、あたしたちは現実に戻るための作業をした。
子供のころ真夜中お化けを見た、それをお母さんに話したら、
ただカーテンが揺らめいていただけでしょって笑われた。
シャンプーをしてるとき背後に気配を感じて、急いで泡を洗い流して振り返っても、
結局誰もいなかった。
心霊写真は結局パソコンで加工して作られてるんだって知った。
ネッシーはラジコンだった。
だから、電源を何度押してもパソコンが消えなかったけれどそれは本当にボタンが壊れてたからだったし、
コンセントを抜いても画面が消えなかったのはノートパソコンの充電池を抜いてなかったからだった。
ノートパソコンの充電池を外すと電源は切れた。
ちっとも不思議な現象でも何でもなかったんだって二人で納得しあった。
テレビをつけて、ダウンタウンのDVDを見たらもうすっかり忘れた。
エッチして、抱き合って寝た。
朝になれば、もう終わったこと。後々、面白かったねって、笑えること。処理された出来事。
でもできれば、当分は口にしたくない出来事。

メールは、まだあのサイトがあたしたちの人生で続いていることを教えてくれた。
(生首切断)
(確実に)
(確実に)

あたしの呼吸は荒くなる。息を止めてみる。油断すると、ただの涙が号泣と嗚咽に変わろうとするから。
泣いたら、またヒロに怒られるから。
「おい、答えろってミキ」ヒロが言う。なんだかセリフみたいな口調。「俺、さっき、あの…、メアド登録したか?」
ヒロは、あのサイト、とはもう言わなかった。言いたくなかったんだ。
でもヒロは本当は、こう言いたかったと思う。あたしもそういってくれることを望んでた。
(なあミキ、俺さっきあの殺人代行サイトで)
殺人。絶対に口に出せない。今そんな言葉を聞いたら、あたしはおかしくなってしまうかもしれない。
だけど、心のどこかで、その言葉を聞きたがっている自分がいる。今の状況を認めてしまって、楽になりたいんだと思う。
「してないと思う」あたしは言う。「してないよ。絶対」
わかんない。あんまり覚えてない。だって、怖かったから、画面を見たくなかった。
だけど、メールアドレスなんて、入れてなかったと思う。
それより、その前の記憶が愛しい。
あたしのベッドの上で、ヤンマガ読みながら楽しそうに笑ってたヒロを思い出す。
あのときに戻りたい。いやできればもっと前。カラオケボックスに戻りたい。
ケンカしてたけど、今よりも一億倍マシ。
いや、もっともっと前がいい。ヒロと出会って二ヶ月目に戻りたい。
ディズニーランド。帰りのバスではじめてキスしてくれた。あのときに戻りたい。

(ケータイのアドレス入れる欄あったかどうか、
パソコン立ち上げてもう一度確かめてみよっか?)

そんなこと、できるわけがない。この暗闇の中で?
腰を切断された女性の叫び声が脳裏によみがえる。

でもわざわざ立ち上げる必要はなかった。
パソコンは勝手に立ち上がったからだ。

静寂を女性の叫び声が切り裂く。
「うわぁっ!」
今度はヒロがあたしに抱きついた。

続く
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1995 中学三年生
 ズボンのポケットに手を突っ込んで、ぱんぱんに膨らんだペニスの位置を正しい方向へ変える。正しい方向ってのはつまり、ペニスが立つべき方向、へそに向かって。だって太ももに向かって立ったら、折れてしまうからだ。しかし、なんで女の子ってこんなにいいにおいがするんだろうかと僕は不思議に思う。女の子には、独特の体臭がある。汗ばんだ、しっとりした、甘酸っぱいにおい。色で言えばピンク。だけど、授業中に勃起するなんてひどすぎる話。しかもただ、前に座ってる女の子(三年のクラス替え以来、一度も話したこともない)の髪の毛からシャンプーのにおいが漂ってきただけなのに。だけどたぶん、たぶんというより絶対、僕は家に帰ったらこのにおいを思い出してオナニーしまくるんだろう。くだらないことで勃起するたびに、ひどいときなんかは「女」って字を見ただけでも勃起して、もう自分は変態なんじゃないだろうかと僕はよく思ったけど、すぐにその悩みは消える。なぜなら僕の周りには自分と同レベルの、いやそれ以上に変態な友人が大勢いるからだ。このにおいはビダルサッスーンかな。ビダルサッスーン。ああ、女の髪の毛ってなんでこんなにいいにおいがするんだろう。
 後頭部に何かがこつんと当たる。僕は振り返る。教室の後ろのほうの席で、モッさんがにやにやしてる。モッさんの机の上にはちぎった消しゴムの断片がたまっている。すでにモッさんの机の上は雪が降ったみたいになってるのに、それでもまだモッさんは消しゴムをちぎって雪を量産し続けている。僕は微笑んだ。モッさんってば、問題も解かずにまたあんなことしてら。
モッさんが、中指を立てた。
僕は中指を立て返した。
モッさんがオマンコの形を指で作った。僕は思わずぷっと噴出してしまいそうになり、あわてて机にうつぶせた。腕の間から黒板を見ると、下山が腕組してこっちをにらんでいる。やっべー、静かにしよう。またゲンコツされそうだ。僕は下山のことがあまり好きではなかった。下山はバレーボールの顧問をやっていて、部員たちにはスパルタ教育で恐れられているのだが、そのノリを数学の授業にまで持ち込んでくる。いい先生だとは思うけど、彼の体育会系のノリにはどうしてもついていけない、宿題忘れたくらいで、すぐに殴ってくるしね。
教室は水を切ったように静かで、窓際のストーブだけがブーンと小さくうなっている。窓は曇っている。ふざけてるのなんて僕とモッさんくらいのものだった。ほかの生徒たちはみんなノートに向かって、必死に問題を解いている。そりゃそうだろうなと僕は思った。もう十二月だもんな。もう高校入試が近いんだよな。
僕はシャープペンシルを握りなおし、再び問題に取り掛かった。台形の面積を求めているうちに、いつのまにか勃起は静まっていた。
そのあとも何度か後ろから消しゴムのカスが飛んできたけど、僕は無視した。
モッさんは、ほんとはモリタサトルっていう名前だ。はじめはみんな「もりさん」って呼んでたけど、いつのまにかなまって「モッさん」というあだ名になった。僕はモッさんのことが好きだった。モッさんのエロ話は面白いし、ギャグが最高だし、志村けんのモノマネもうまい。ダウンタウンのビデオを貸してくれるし、ちんぽはでかいし、ファミコンのソフトもすぐに貸してくれるし、ほんといいやつ。あと、モッさんの家でもらう麦茶はすごくおいしい。あと、モッさんの姉ちゃんはブスだけど、妹はなかなかかわいい。姉ちゃんの悪口を言われるとモッさんはキレる。
モッさんは僕と同じく、とてつもないエロだ。僕にオナニーを教えたのは何を隠そうモッさんだ。あれは中学校に入ったばかりのころ。僕はモッさんと一緒に公園で遊んでいて、そういう話になった。モッさんが股の間にこぶしを握って動かし、「シコシコキング」という変な動作のギャグを何度もやるのだが、僕は意味がわからなかった。僕の無知に気づいたモッさんは驚いて、ジャングルジムの上でオナニーの講釈を始めた。
「いいか?こうやるんだ。おまえ、マジで知らないのか?」
モッさんはそう言って、プラスチックバットのグリップを握り締めた。僕はモッさんの指を見つめた。モッさんの爪の間は泥で真っ黒けになっていた(さっき砂場で山を作ったあと僕は水道で手を入念に洗ったがモッさんは洗わなかった)。
 モッさんはグリップを恐ろしい速さでこすった。ヒャグヒャグと変な音がした。
「ヒョエー」僕は言った。「それで、どうなるの?」
 モッさんはグリップをこすりながら、地面に向かってペッペッペッペッと四回つばを吐いた。つばは草の上に落ちた。モッさんは草の上で輝いている自分のつばを指差した。「先っちょからああいうのが出る」
「しょんべんじゃなくって?」
「精子だ」
「セーシ?」
 僕はさっそく家に帰って言われたとおりにやってみた。
その日から人生が楽しくなった。
あと疲れやすくなった。
でもなぜだか、モッさんの言ってたセーシは出なかった。それでも半年もしつこくやってると、ついに僕のちんちんの先っちょからセーシが出た。うれしくなって、あかね姉ちゃんの部屋にティッシュを持っていって報告したら平手でパッチーンと殴られた。僕の姉ちゃんはモッさんの姉ちゃんと違って美人だ。だけど乱暴で怒りっぽい。

 下山が教壇をものさしでたたいた。バシッとしなやかな音が教室に響き、生徒たちは顔を上げた。みんなもうこの音には慣れたものだが、僕はいまだに驚いて体をびくつかせてしまう。
「そこまで」下山が言った。「時間だ。ペンを置きなさい」
 張り詰めていた空気から、とたんに教室がにぎやかになる。どうだった?とか、難しかった?とか、ぜんぜん解けなかった、とか、生徒たちが雑談を始める。僕は頭を抱えた。ぜんぜん解けてない。例題を読んでいるところで時間が来てしまったのだ。4番目の設問が解けないと…、なんと三十点の大損!この設問を白紙で提出するんだからたまらない。
「ねえ」
 誰かに呼びかけられて、僕は顔を上げる。例の女の子(まあ、ビダルサッスーンとしておこうじゃないか)がこっちを振り向いている。彼女と目が合い、僕の心臓は一瞬縮こまる。
「どうだった?」ビダルサッスーンが言う。
「え、あ、その…」僕はどぎまぎする。「さ、最高だった」
「え?」
下山がもう一度ものさしで机をバーンとたたいた。教室がいっぺんに静まり返る。女の子は前を向いた。僕はがっかりした。くそ、下山のやつ!「みんな、おしゃべりは終わりだ。それじゃ後ろの席の人、プリントを集めて来なさい」
 僕の席に、モッさんがやってきた。
「どうだった?」モッさんが言った。
「ぜんぜん」僕はプリントをモッさんに差し出した。「最後の設問のとこなんか、まったく書けてない。完全にヤマが外れて…」
「バカ」モッさんが僕に耳打ちする。「…ビデオの話だよ!」
「は?」
「昨日貨してやったビデオ、どうだったんだよ」
 僕の目にモッさんの答案がちらりと見えた。プリントの端っこしか見えなかったけど、あれは間違いなく『キテレツ大百科』に出てくるコロ助のちょんまげだった。ちょんまげがあの大きさだったら、たぶんプリントの全面にかけて巨大なコロ助がのさばっていることだろう。
「こら、モリタ」下山が言う。「さっさと集めてこい。くだらんこと話してるんじゃないぞ」
「へいへい」
 モッさんはだるそうに僕のプリントをひったくった。
 下山は生徒たちから受け取ったプリントをひとつに束ねて、端っこを黒いバインダーで留めた。あの紙の束が全部燃えてなくなればいいのに、と僕は思った。
「いいかお前ら」下山が言った。「前にも言ったとおり、この小テストは重要だ。でもな、このテストがだめだったからって、落ち込むことはない。また来週の火曜日に同じ形式でテストするから、予習をきちんとしておくように。じゃあ、通常通り授業を始める。教科書の二百ページを開いて…」
「先生!」
 メガネをかけた生徒が手を挙げた。
「なんだ?」
「このテストは、内申書には関係してくるんですか?」
「んん?」
「それから、次回のテストの内容はこの問題形式と同様ですか?また、制限時間は本日と同じく二十分になりますか?あと、今回の試験ですが、試験範囲と微妙に異なる設問がありましたが?」
やれやれまたあいつだ。僕はため息をつく。「本日」だってさ。「今日」っていえばいいのに、「本日」だよ。ガリ勉の、秀才の、あいつ。毎回期末テストでクラストップの四八〇点代をたたき出す。あいつの名前はたしか…、忘れた。たしか
「山田」下山が困った顔をした。「そのあたりのことはな、あとで職員室に来なさい。教えてあげるから」
 そうそう、山田だ。僕はシャープペンシルを手の中でくるくる回した。ああいうタイプの平凡な人間は、やっぱり名前も平凡なんだな。いや、まあ勉強ができるから平凡じゃないのか。僕は内申書とか進路とか超つまんねーから、エリートコースをひた走ろうとする山田みたいなタイプをうっとうしく思っている。だけどモッさんみたいにすべてを捨てる(ウケを取るためなら衣服やパンツすら、ね)勇気もない。考えるのがめんどくさかったので、もうどうでもいいやーと思う。だから勉強したりしなかったり。完全に流れに身を任せている。
「ですがですね、設問2の台形の面積の証明についての問題ですが、これはまだ授業では進みきれていないところです。まあ、僕の通っている塾ではすでに講義は終了しているのですが」
「山田、だからあとで職員室に」
「しかし!」
山田が食い下がる。いいぞ、もっとやれ。山田、がんばれ。授業時間をどんどん削ってくれ。
 するとトツゼン、前の席のビダルサッスーンがこっちを振り向いた。んで、「山田君ってちょっといいかげんにしてほしいよねヤダよねー」みたいな感じでまゆ毛をしかめて軽くほほえんだ。僕はその笑顔を死ぬほどかわいいと思った。なんだかヨーロッパの映画に出てくる女優みたいな仕草だ、と思った。ほいで、また勃起し始める。
 この子、ぼくのこと好きなんだろうか?
 後ろから消しゴムのカスが飛んできた。

 みんな同じ緑色のジャージを着た陸上部の集団が、川の向こう側を走っている。ヨンチュー、セイ、エイ、セイ、エイ、ヨンチュー、セイ、エイ、セイ、エイ、なんて掛け声を出し合いながら。僕は、自分ももう一度あの集団に入って、昔みたいに何も考えず一緒に走りたい衝動に駆られる。一年生のころは、この川の周りをバカみたいに何周もぐるぐる走ったものだった。僕は陸上部に入っていた。卒業までずっと続けたかったのだが、三年になると強制的に退部させられた。そのことを顧問に抗議したら、走ってる暇があったら勉強しろといわれた。でも中島はまだやってるじゃないですかと反論すると、中島は勉強できるからいいんだでもお前はこないだの期末テスト三百点台だったろそれじゃどんなバカ高校でも入れないぞ、だって。そして顧問の教師はこう続けた、いいかヒロト、陸上なんてのはな、いつでもできるんだ、高校に入ったら存分にやればいいんだ。
勉強だって、いつでもできるじゃん。
モッさんは一段高い堤防のところを、バランスをとりながら歩いている。さっき道端で拾った木の枝をしきりに振り回している。
「タカギだろ?」とモッさん。「タカギカヨコ」
「モッさん、知ってるの?」
「俺、一年のころから同じクラスだもん」
「マジで?」
「なんだよヒロト、おまえ、タカギのこと好きなのか?」
「いや好きっていうか、少し気になるっていうかさ」
「カエルちゃんはどうなったんだ?」
「か、カエルちゃん?」僕は声がガマガエルの鳴き声みたいにひっくり返った。「あの子のことはもうどうでもいいんだ!」
 カエルちゃんっていうのは、ひと夏のアバンチュール。いやそんな大げさなもんでもないな。今年の夏休みに、市民プールで知り合った女の子のこと。僕とモッさんは回るプールにゴムボートを浮かべ、その上に寝そべってコーラを飲んでいた。僕たちはダイエーで買った五百円のダサいサングラスをかけてた。だけど僕とモッさんはアメリカのギャングスタ・ラッパー気分で、田舎の市民プールだけど気持ちだけはロサンゼルス。日差しを浴びて、にわか豪華ホテルでレイドバック気分。するとうまい具合に二人のホーミー(マブい女)、カエルちゃんとトカゲちゃんが話しかけてきた。彼女たちは、乗せてーとかいって勝手にボートに乗ってきた。安物のボートはもちろんひっくり返って転覆した。モッさんはお気に入りのサングラスをどこかに失くして、しばらくブツブツ文句を垂れていた。僕はカエルちゃんと、モッさんはトカゲちゃんと仲良くなった。夏が終わってもしばらくはグループ交際を続けた。もちろんカエルちゃんトカゲちゃんってのは彼女らの本名ではなくて、モッさんがつけたあだ名だ。泳ぎがうまいのでカエルちゃん、その友達だからトカゲちゃん。安易だ。モッさんはすぐにトカゲちゃんと別れた。モッさんは「捕まえようとしたけどな、しっぽが切れたんだ」とかくだらないことを言っていた。でも手をつなぐところまでは、こぎつけたらしい!僕はそれがくやしくて、自分もなんとか女の子と手をつなぎたいと思って、カエルちゃんとしばらく交際を続けた。だけどとつぜん連絡が来なくなった。原因はまったくわからなかったが、もしかすると、公園のベンチに座ってていきなりおっぱいを触ろうとしたのが原因かもしれない。僕は、モッさんに勝つにはおっぱいしかないと思ったのだ。もちろんカエルちゃんは水かきで僕のほっぺたを思いっきり殴った。

「ヒロト、でも、いいのかよ?」モッさんが堤防の上から言う。「おまえ、高校入試控えてるんだろうよ。こんな時期にのんきに恋愛か?」
「そんなんじゃないよ」
「でも、タカギカヨコかぁ。あいつ、無口だしな。俺ほとんど話したことねーんだよな」モッさんは枝を川の方に投げた。枝はくるくる回転しながら、風で煽られて遠くのほうに落ちた。水面が少しだけ跳ね上がったのが僕に見えた。
「そうだ!そういや修学旅行のとき」モッさんが言った。
「え?なになに」
「二年のときにさ。修学旅行でスキー行ったじゃん。バスでタカギと隣同士になったんだよ。で、俺乗り物弱いじゃん。長野までバスで十二時間なんて、まあムリなんだよ。で、五時間くらい走ったところで、めちゃくちゃ気分悪くなったんだよ。俺我慢しきれずに吐いちゃったんだ。タカギのひざに」
「マジで?」僕はなんだかあの子のいいにおいが汚されたみたいに思って、少しモッさんが嫌いになった。「んで、どうなったの?」
「あの子さぁ、文句ひとつ言わず、ハンカチ貸してくれたんだよな」
 モッさんは堤防からジャンプした。堤防はけっこう高くなってたけど、モッさんはひざを曲げて器用に着地した。まるで猫みたいだ、と僕は思った。
「それで、すぐに先生呼んでくれたんだよな。ふつう自分のゲロ拭いてからだよな?でも俺のことまっさきに気づかってくれてさ。いい子だなって思ったよ」
「す、好きなのか?」
「え?」
「モッさんは、あの子が、す、好きか?」
「ばか、あほ、ヒロト、あほか?修学旅行のときいっぺん話しただけだってのに」モッさんは僕の肩を抱き寄せる。「おいヒロ、それよりよ、昨日貨してやったエロビデどうだったよ?ん?」と、僕の股間をまさぐる。
「わ!ちょ、モッさん!やめてくれ。ヘンタイ!やめろってば」
「飯島愛の裏だぜ。おまえ見たことないだろ。極秘ルートで仕入れたんだからな。さっさと返せよ」
「誰が返すか!」
 僕たちはげらげら笑いながらしばらくその場でふざけあった。

家に帰ると、まずお風呂に入る。そしてごはんを食べる。ここまではいつもと同じ。でも、こっからが違う。今までみたいに、バラエティ番組を見て笑い転げるなんてできない。中学三年生の冬。僕は不幸だ。ダウンタウンの番組が見れなくなるくらいなら、受験なんかどうだっていい。だけど、居間で怠けてると、口うるさいオヤジに勉強しろって怒鳴り飛ばされるわけ。
僕は階段を駆け上がって、自分の部屋に飛び込んで鍵をかける。しばらくすると母さんがドアをノックする。ここまでも、いつもと同じ。
「ヒロト、あんまり気にしちゃだめよ、父さんはあんたのことを思っていってるんだからね」
「わかってるよ!」
でも、なんで勉強しろって言われると腹が立つんだろう?今からやろうとしてたのにさぁ。ちょっとテレビ見てから始めるつもりだったのに。
僕は仕方なく机に向かう。今日の試験がさんざんだったから、そのことにも腹が立ってるのかもしれない。ああ、なんで僕はこんなにバカなんだろうか?誰かの脳みそと交換してほしい。知らない間に股間をいじりだしてる僕。モッさんに借りたエロ本でも読もうかな?外国の無修正のやつ。
ふと思いついて、引き出しを開ける。ガラクタを引っかき回して、僕は一枚の写真を探し出す。この写真は、今年の春の修学旅行で撮ったやつ。廊下に張り出されてたのを買った。京都の下町をバックに、モッさんが僕にキスをしようとしているという哀れな写真。モッさんはどうでもいい。ここ。ほら、ここ。高木さんだ。高木さんが小さく写ってる。このころの彼女はショートカットだ。彼女はだんご屋の前で何人かの友達と座ってる。
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