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プロフィール

田中ようた(ぼくは16角形)

Author:田中ようた(ぼくは16角形)
著者:田中ようた(ぼくは16角形)

漫画家・イラストレーター

お仕事依頼などはyotatanaka★gmail.comにお願いします。
(スパム対策です。★を@に変えてください)


mixiに登録しました。

僕は地獄にしか友達がいないので、人間の友人がほしいです。
よかったらマイミクになってください。

私については
私の師匠であり元月刊ガロ副編集長の白取様の、 「白取特急検車場」

こちら 「ブロ栗」様


こちら 「un-soka」様


をごらんください。



「ぼくは16角形」というサイトがいくつかあるみたいですが、私が本物です。


「ぼくは16角形」のペンネームで1996-2000まで「月刊ガロ」に投稿。
「16角形」とか「16」とか「ぼくジュー」とか、呼びにくいので、
ペンネームを「田中ようた」に変えようと思ってます。

大阪在住。暴力マンガと回想記を主に描いています。
近々上京予定?


このブログはお金目的でやるつもりはないので、
アフィリエイトは一切貼りません。

どれだけマンガを更新しても僕には一円も入りませんが、
みなさんが面白いと思っていただければ
これほどうれしいことはありません。

ペンネーム考え中。

「ぼくは16角形」というペンネームで描いてました。


1996年より漫画執筆を開始。

過去の作品や新作などを更新していけたらと思っています。

雑誌掲載履歴

雑誌掲載履歴です。 名称未設定-2


無料漫画 マンガ・コミック 真夜中のリストカット
こういうとき、何を考えればいいんだろう?
楽しかったこと?
それとも、つらかったこと?

私の十九年の人生で、楽しいことなんて何もなくて、
ただつらいことばかりだった気がする。

痛いのかな。
でもたぶん痛いなんて考える暇もないんだろう。
一瞬でおわるんだ。

アナウンスが響く。

「新快速が通過します。黄色い線の内側でお待ちください」

包丁はもともと物を切るために作られたもので
人を刺すために作られたものじゃない。

電車だってそう。もともとは人を運ぶために作られたもの。
決して、人の体を粉々にするために作られたものじゃない。

こういうのをシニフィエとか、シニフィアンとかいうんだったかな。
大学の講義で習ったんだっけ。
退屈な講義だった。

大学の一回生のころサークル内の先輩にコクられて付き合うことになった。
先輩はビジュアル系のバンドでボーカルとギターをしてて
すごく人気のあるバンドで取り巻きもたくさんいて
なんで私みたいなのを選んでくれたのか知らないけど
そのうち私はサークルの女子の間で憎まれるようになって
シカトされ出していつのまにか輪の中から孤立しはじめた。
私はまだ処女で先輩にコクられたときはマジで舞い上がっちゃって
二つ返事でOKしたんだけど実は彼はただのヤリチンで
だれかれかまわず口説いてて特に処女キラーだってあとで知った。
彼のくどき文句は、

「えっ君って処女なの?でも大丈夫俺は痛くしないでできるから安心してね」

たしかに私もホテルでそういう風に言われた。しかも、めっちゃくちゃ痛くて泣いた。

そのうち先輩には別の彼女ができて
(私の処女を奪ったら興味を失ったのかとたんに距離を置かれた)、
サークルでは私の孤立が続いてて大学に行くのがほんとにイヤになったから、
授業そっちのけでバイトをはじめた。

居酒屋のバイト。
バイトの先輩にすごくやさしい人がいた。
はじめてあったときからなんだか好意を持てた。
どことなくサークルの先輩に似た、茶髪の人。まじめそうで、でも目は鋭かった。
今はこんなとこでバイトしてるけどいつかは武道館でライブをするのが夢だって言ってた。

バイト帰りに寄った公園で彼が私に告白してキスしてくれたとき、
実は初日からミキちゃんのこと好きだったんだよって言ってくれた。
すっごくうれしかった。

正式に付き合うことになって、私は彼の下宿で一緒に住むことにした。

はじめはすごく仲がよかった。毎日一緒のベッドで寝て、彼の胸は暖かくて幸せだった。

彼が豹変したのは私がサークルの例の先輩とメールしてたのがばれたから。

彼は私を拳で殴った。
「本気で殴ったんじゃないからな俺は女を殴るタイプじゃないしフェミニストなんだからな
今回はお前が悪いんだぞだってお前は俺以外の男と関わろうとしたんだからな
俺が本気で殴ったらお前は今頃墓の中にいるんだぞ昔ボクシングやってたんだからな」

そう彼は言ったけど、たぶん本気で殴ったんだと思う。

だって私は鼻の骨を脱臼した。

男の人って一度女性に暴力を振るうととクセになるらしくって
その「鼻脱臼事件」以降、ことあるごとに、些細なことで彼に殴られた。
殴った後彼はいつもおまえのために殴ったんだお前は体が痛いかもしれないけれど
俺だって心が痛いんだ本当は殴りたくないんだけどお前がわかってくれないからだ
とか言って、頭をたくさんなでてくれる。
好きだとか愛してるとかたくさん言ってくれる。
だから私も彼をいとしく思う。

私を殴った後、彼はすごく暴力的になる。
動物のようなセックスをする。
彼の暴力は愛情表現のひとつなんだと思っていた。
ドメスティック・バイオレンスなんて言葉は知らなかった。

日を追うごとに彼氏の暴力はさらにひどくなった。

私が食事を少し残した(カレーのグリーンピースを二粒)だけで
背中にドロップキックされた。
真夜中私の寝相が悪くって、それが原因で彼の腕がしびれたらしくって、
彼は私の髪の毛を引っ張って立たせて壁に何度も私のおでこをぶつけた。
そのときは部屋が暗くて気がつかなかったけど、
朝鏡を見るとおでこに大きな傷とかさぶたができてて
鼻の辺りまで乾いた血がべったり張り付いてて、壁は血まみれだった。
それを知った彼は私をものすごく強く抱いてくれた。
「ごめんなごめんなミキ。ごめんな。本当にごめん。
ごめんな。お前が嫌いでこんなことするわけじゃないんだ。
おでこいたい?薬塗ろうか?ごめんな。俺なんか死んだほうがいいよな」
おでこに何度もキスしてくれた。彼の唇が触れるたびに鈍い痛みが走った。

同棲を始めて三ヶ月もすると、彼氏のことがすごく怖くなってきた。

ほんとに怖い。

夜も、朝も、昼も眠れない。

彼の家を出て行きたいけれど、実家には戻りたくない、
だってお父さんがお酒飲んで暴れて、お母さんを殴るから。
お母さんが、ごみを見るみたいな目で私を睨むから。

彼氏の家で、はじめてリストカットをした夜のことをよく覚えてる。
テレビでは生放送のバラエティ−番組がやっていた。
お笑い芸人たちがパイをぶつけ合ったりしてて、すごく楽しそうだった。
別世界、という言葉を思った。
バラエティー番組と、私。
この二つの相反する世界が、いま同時に進行しているなんて信じられない。

図工用のハサミで手首をなぞる。
刃が鈍くて思うように切れない。
それでも切ったところがちょっと赤くなって、血がにじんでくる。
赤い手首を見ていると、自分は生きているんだって、少しだけ思う。
押さえつけた真っ白なティッシュが赤くにじむのをみて、
私は何ヶ月かぶりに少しだけ笑った。

ティッシュは便所に流した。ゴミ箱なんかに捨てたらまた殴られるから。
洗面所で手首とハサミを入念に洗った。

二時間後帰ってきた彼氏は私の手首の傷にまったく気がつかず、
三分程度の自分勝手なセックスをして(顔に出された)、
さっさと寝てしまった。

彼のことが好きだった。

彼が毎日私を殴ったとしても。突然私の財布からお金がなくなったとしても。

我慢強い私のコップがあふれたのは、昨夜のこと。

もともと私のコップはそんなに大きくない。
マグカップほどもない。ヤクルトの容器程度の、小さなものだ。
それでも、なんとかこのいびつな世界で、がんばって生きてきた。

これからだって、溜まったら汚れた水を捨てて、新しい水を汲んで。
そうして、自分をごまかして生きていくつもりだった。

バイトから帰ってきて下宿のドアを開けると、知らない真っ赤なヒールが置いてあった。
そして、部屋の奥から声が聞こえた。

例の声だ、とすぐわかった。

あの動物的な。

我慢しようとしても出してしまう、女性のあの声。

「これが、いいんだろ?」って彼の声がかすかに聞こえた。

私はアパートの階段を駆け下りて、ただ走った。
どこへ?知らない。

どこへも行けない。行く場所がない。

走ってる最中にケータイを橋の上から川に投げ捨てた。

無我夢中で、一時間くらい走った。

気がついたら見知らぬ町の公園にいた。

ベンチに座った。

黒猫が寄ってきて、私の足元に体をすり寄せてきた。
えさがほしいのだろう。
ポケットを探る。
入ってたメントスを一粒渡したけどそっぽを向かれる。

ごめんね、何もない。

私にはもう何もないんだ。

彼を抱いたまま、ベンチに横たわって寝た。彼の体はすごく温かかった。
性別なんてわかんないけど、この猫は、オスだ。オスに決まってる。
そうじゃないと、この世界なんてもう何も信じられない。
神様、おねがい。

目覚める。
午前6時。

猫はいなくなっていた。

ホームレスが話しかけてきたから逃げる。

食欲はない。酔いたい。
コンビニで缶チューハイを買う。

飲みきれずに半分残したままゴミ箱に捨てる。

私は駅に向かう。

ホームに立つ。雑踏。人間の声。
ふだんあれほど苦手な人ごみにいても、不思議と落ち着いている。

電車は、人生の縮図だと思う。
中学生、高校生、大学生、サラリーマン。
電車に乗っている人たちは、文字通り、
社会のレールの上で生活しているひとたち。

私は、今から、「社会」に飛び込む。
そう決めて、切符を買った。
切符には、「渋谷120円」って書いてる。
だけど私が渋谷に着くことはない、もう二度と。

耳をすます。いろんな音が聞こえてくる。
人の笑い声。女子高生が携帯で話す声。鳥の鳴き声。
中年男性が新聞をめくる音。
世界はこんなに「音」にあふれていたのか。

そして、遠くから迫ってくるのは、電車の車輪が回る音。
それは、どんどん、どんどん近づいてくる。

私は目を閉じて、足を一歩前に踏み出す。

もう一歩。

黄色い線を踏み越える。

もう一歩。ここでいい。

電車は、もうすぐそこにまで近づいている。

体がこわばる。

だけどなんだか、飛べそうな気がする。

恐怖心はまったくない。さっきのお酒で酔ってるのかな。どうなんだろう。
まあ、もう、どっちでもいいや。

そのとき思い出したのは、幼稚園に通ってたころのことだった。

幸せだった。

あのころ、お父さんも、お母さんも、仲がよかった。
はじめのパパ。

あのころ、インターホンが鳴ると、私は走り幅跳びの選手になった。

玄関に駆け出して、ジャンプ。

パパは大きな胸と笑顔で私を受け止めてくれる。

ママ、なんでパパと別れちゃったの?
ミキは、新しいお父さんなんていらなかったんだよ?

お金もいらない。何もいらない。

私がほしかったものはひとつ。
私のすべてを受け止めてくれる、愛してくれる誰か。

ただそれだけが、ほしかったんだ。

頭のどこかで、インターホンが聞こえた。パパが帰ってきたんだ。

はじめに右足が、次に左足が地面を離れる。

何もかもがスローモーションで流れる。

空中に飛び込んだ瞬間、一瞬、自由になれた気がした。

視界のはじっこに「ヤマダ耳鼻科」と書かれた看板が見える。

誰かが叫ぶ声。

電車の警笛が、私の鼓膜をつんざく。
今までに聞いたことがないくらい、大きな音。

その音さえ、心地よく思った。

文章 CM(12) 

竹内先輩の彼女のヤリマンが介入するあたりから
今、僕と紗知は日本を遠く離れ、太平洋を漂っている。

魚群の中心にクロールし、深海魚に挨拶をする。
エイの背中に乗っては、たこつぼに手を突っ込み、人食いザメに追い掛け回される。

ガラスにべったり張り付いた指紋に気が付いて、一気に現実に戻される。

「サメの肉ってどんな味するのかな?」
「不味そうですよね」

紗知の横顔に青い光が反射し、彼女の頬の上で名前も知らない奇妙な魚が泳いでいる。
頭上のスピーカーからヒーリングミュージックが小さく流れている。

「やばかったんや!」

大声がして振り向く。
すぐ隣で、ホスト風の男と、ホステス風の女が会話をしている。

「ほんまに!ほんで、尿検査をしろってことになって
そんでどうなったと思う?尿検査切り抜けなあかんわ、思って」

いや、会話じゃない。
男が一方的にしゃべり、女はただうなずいているだけだから。

「警察に、何で尿検査なんかせんとあかんねん、ってゆうたんや。
そやけど、どうしても尿をとらなあかんってことになって、
俺先輩に相談したんや。竹内先輩。お前も知ってるやろ?」

そばに座っていた子連れ夫婦が、怪訝そうな顔で彼らに一瞥を与え、立ち去る。

「空気」をことごとく破壊していく彼が、
LSDやらシャブやらヘロインやら尿検査やら物騒な言葉を発するたび、
水槽にヒビが入るように思う。

滑稽で、かっこよくて、非常に…サメよりスリリングだ。

「太平洋にあんな金髪の魚おったっけ?」と僕。
「いたんでしょうね」

男はその後もしつこく同じような話を続ける。
退屈そうな女は、もはやうなずくことさえやめている。
場の空気どころか、連れている女の心も読めていない。

どうやら尿検査は無事に切り抜けたらしい。

仲間たちと竹内先輩の車に乗りこみ御堂筋線を猛スピードで走り抜けて警察を巻くあたりで、
女が不機嫌そうに立ち上がる。

僕はがっかりする。

それはたぶん、
ジャンキーの彼が破壊された脳みそで必死に紡いできた、
この物語のクライマックス・シーンだったはずだ(だってカーチェイスだよ)。

いちばん面白そうなところで立ち上がるなんて、この女はふざけてる。
こいつはきっと、映画を粗末にする女だ。
上映中に携帯を開いたり、大きな声で話したりするに違いない。

女の気持ちもわかる。
たしかに退屈な映画だった。

彼の話はやや冗長すぎた。
ストーリーは本筋を逸れて二転三転するし、
一度した話を何度も繰り返すし、
目はうつろだったし、
たぶん、彼はその日も尿検査をすべきだった。

それでも、竹内先輩の彼女のヤリマンが介入するあたりから、
物語はようやく面白くなってきていたのだ。
彼の話はたぶんハリウッドタイプじゃなくて、ヨーロッパ映画なんだ。
はじめは退屈でも、後半から一気に盛り上がるはずだったんだ。

だけど女は席を立った。

怒って去る女を、男が追いかける。
「ほんでな、ヒロシ、どうなったと思う?ほんまにあいつメチャクチャやで!」

思わず僕は突っ込む。

(女ブチギレてんのに、まだその話続けるんかい!)

最後までパンクな男だ。
彼らは太平洋を抜け、ナイル川に沈んでいく。

ヒロシがうまく警察を巻けたのかが気になる。




僕たちは水族館を出る。
入り口前で、
カラフルな衣装を着た男が火炎瓶を振り回し、
観客の喝采を受けている。

「以上で、終わりです!
いかがでしたか、僕のショウは?面白かったですか?」

客が声援で答え、誰かが指笛さえ鳴らす。

男はギターケースを開くと、
声色と頬の筋肉を二オクターブ程上げて、
「ちなみに、僕は帰りの電車賃がありません!
ショウを続けるためには、みなさんのお気持ちが欲しい!
小さいのでも、もちろん構いませんが、
えーと、ああ、ぶっちゃけます!できれば福沢さんが書いてある紙が欲しいです!」

一斉に客が去る。
魚の群れが散るごとく。

「大道芸人ってな、お金の話するの、やめたほうがええと思わん?」
「そうですね」
「なんか、ガッカリするよな。子供も見てるのにな」

この水族館のすぐそばに寿司屋があるのはどうなんだろう。
変り種を揃えていて、サメだって食べられる。
そういや昔、動物園に行ったとき、
ニワトリ園やアヒル園のすぐ前で平然とフライドチキンが売られていた。
遠足で農場に行ったときに、
興味本位で弁当のとんかつを豚にあげたら大喜びでむさぼった。
ホスト風の格好で水族館を闊歩して放言を撒き散らすのはさぞ楽しいのだろう。




結局、「市場経済」という名のいびつな線の上では、

水商売風の男女もエイもサメもドラッグもフライドチキンも
尿検査も寿司屋もニワトリ園も火炎瓶も大道芸人もヒロシも
ガラスにべったりついていた指紋もとんかつも、

僕も彼女も、

「円」という価値で換算される単なる記号なんだな、と改めて思った。

回転寿司を食べて帰った。

文章 CM(2) 

無料漫画 マンガ・コミック 
昨日、俺はビビンバを作ろうとしていた。

最近専属の看護師から食生活について忠告を受けたので、

意識して野菜を取るように心がけているのだ。


診察時彼女は、俺の普段の食事内容を聞いて驚き、目を丸くした。

「そんな食事を続けていたら、死にますよ!」

「そうですか?」

これでも、食生活のバリエーションには注意をしていたつもりだ。

俺の一週間の食生活ルーチンを追ってみよう。


 月曜 朝マクドナルド、昼吉野家、夜回転寿司

 火曜 朝吉野家、昼回転寿司、夜マクドナルド

 水曜 朝回転寿司、昼マクドナルド、夜吉野家

 木曜 朝マクドナルド、昼輪ゴム、夜吉野家

 金曜 朝マクドナルド、昼吉野家、夜吉野家

 土曜 朝吉野家、昼吉野家、夜吉野家



「毎日いっしょやんけ!」と読者諸氏が突っ込みたい気持ちは痛いほどわかる。
(加えて、木曜日の昼にいったい何が起こったのかも気になるところだろう)


しかし、独身男性ならわかってくれると思うが、
朝に食べるマクドナルドと、夜に食べるマクドナルドには雲泥の差がある。

同様に昼に食べる吉野家と夜に食べる吉野家は…、

いや弁解はよそう。


確かにこのままでは、体や脳にガタが来てもおかしくない。
ふだん俺の言動がおかしいことも、
突然輪ゴムをむさぼり始めたのもそれが原因かもしれない。

(ほかほかのご飯に輪ゴムを載せてしょうゆをかけると案外イケる。ぜひ試してほしい)



看護師からファーストフード禁止令が出た。

「意識的に食生活を改善すれば、三ヶ月できれいな体になれますから」

「ええ」

「私はあなたのためを思って言っています。わかりますね」

「はい、わかります」

この看護師は大変美人だ。ぱっちりした瞳に、長いまつげ。ピンク色の唇。

俺は美人には弱い。とことんまで弱い。

彼女の言うことなら黙って聞くしかない。

拾われた子犬のごとく彼女の命令を愚直に聞いていれば、

そのうちおっぱいとか、おっぱいとか、おっぱいとかを揉ませてくれるかもしれない。

あ、あと、言い忘れてたけど、おっぱいとかも揉ませてくれるかもしれない。

揉ませてもらえないおっぱいはさておき、

とりあえずジャンクフードは絶対に禁止。そう心に誓った。

彼女の話を聞いているうち、ジャンクフード全般に恐怖と吐き気を覚えてきた。
いわく、カップヌードルやらファーストフードといった類は、化学物質まみれらしい。

今まで俺は、金を払って毒物を食べていた。

俺は間違っていた。彼女の言うことは正しい。

二度とジャンクフードを口にすることはない。

これからは野菜中心の食生活を。

ポール・マッカートニーのごとく「偏執的ベジタリアン」に移行しよう。

さて病院を出るとおなかがすいてきたので、
さっそくマクドナルドに直行してテリヤキバーガーセットをテイクアウトした。

公園のベンチに腰掛け、袋を開ける。マック特有のにおいが鼻をくすぐる。

エクセレント。最高だ。

…エクセレントだと?そんな生ぬるい形容ではマックを愚弄するだけだ。

生ぬるい。生ぬるいぞ、田中ようた。

もう、あの言葉を叫ぶしかないんだ。

俺は立ち上がった。

愚民扱いされるのは覚悟だ。

口元に手をあて、喉が割れんくらいの大声で、俺はこう叫んだ。


「パラッパッパッパー!!!!!アイム、ラービニーッ!!!!(I'm lovin' it !!!!!)」


残響音がマンションに跳ね返る。

さっきまで談笑していた子連れの若妻連中が、こちらに白い目をくれてから、
そそくさと公園を去る。


のどかな昼間の公園が、一瞬で戦場と化した。


いけない、いけない。悪いクセだ。
好きなものを前にすると我を忘れてしまうのだ。自重しなくては。

「ようたくんってば、だめなんだぁ♪」
俺はコツンと頭を叩き、舌をペロッと出して少しおどけてみせる。


さ、おふざけはここまで。

食事を始めよう。

手のひらのホコリをさっさと払い、袋に手を突っ込む。バーガーはまだ暖かい。

ダブルチーズバーガーやフィレオフィッシュに浮気したこともあったが、

やはりテリヤキバーガーはジャンクフードの王様だ。

あふれ出す油、肉汁、マヨネーズ。

ああ。

愛してるよテリヤキ。いやむしろテリ子。鈴木テリ子。

鈴木テリ子(21)。B83W58H85。都内某女子短大生。

アイラブユー、テリ子。さあベッドインだ。おまえのすべてを奪ってやろう。

あんぐりと口を開け、こってりとしたビーフを口に運ぼうとして、


思いとどまる。



・・・



テリ子を地面にたたきつけ、俺は頭を抱えてもだえる。



バカ。

俺のバカ。



何やってんだよ。


何でいつもこうなんだよ。ちくしょう。






Fuck!!!!!


俺のバカ!!!!!!!!!!










ナゲット買い忘れた!!!!!!



文章 CM(6) 

無料漫画 マンガ・コミック 最近のこと
サイトタイトルに「無料漫画」と銘打っているのに、
最近は漫画をあまりアップロードできていない。

文章ばかりだ。

だけどみなさん割と拍手をくれるから、このままでもいいのかな。

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僕は昨年、ウェブの大海に「田中ようたブログ」を立ち上げた。
はじめは小さな「塵」だったけれど、
今は、そうやなー、ちょっとしたゴミクズ程度の規模には成長したかな。

誰が読んでいるのか?
どのコンテンツで満足してくれているのか?

まったくわからない。

だから、「アクセス数」と「拍手」をサイトの道しるべにするしかない。

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つくづく自分は、絵よりも文章の人間なんじゃないかなと思う。

というのも、
これすごく下世話な話なんですが、

僕ね、文章書いてると勃起してくるんですよ。

脳の言語野が勃起中枢とダイレクトにつながってるらしくて、
「あいうえお、かきくけこ」と綴っていると、
なぜか性的に興奮してくるらしい。

つまり、ちんちんが硬くなってくるわけです。

----------

サイトのデザインを変えようと思っている。

トップ画像を貼り付けたい。

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お金と、芸術、
この両者にどう折り合いをつけていくか?

これについてすごく悩んでいる。


以前行った出版社で、親切な編集の方がいろいろ教えてくれた。

「田中さんはプロとしてやっていきたいんですよね?」

「そうですね」

「漫画でお金をもらって行きたいんですよね」

「ええ」

「じゃあ、世間に迎合することもひとつの方法ですよ。

ある程度売れてから、自分の味を出していく方法もありますし」




褒め言葉だと思うんだけど、
「こんな漫画がジャンプとかに載ってたら私は自分の子供に読ませたくありません」
という読者の方からコメントをいただいたけど、

もちろん。

ぼくも、自分の漫画は自分の子供に読ませたくありません。

R指定すべきだ。

だってそういう内容だもの。



商業誌に載りたければ商業誌のルールに則って書かないとなあ。


前回の持込日記では、あまりにも怒りが充満していて
ひどい罵詈雑言を撒き散らしてしまった
(読み返したらさすがにひどすぎたので、該当箇所は削除した)。

でもね、某大型掲示板みたいに無記名で書いたわけじゃないからね。

僕のことはいくらでも特定できるのだから、便所の落書きじゃないよね。

--------

表現者を志すなら精神的にもう少し図太くならないといけないな。

ちょっと批判を受けただけで落ち込むようじゃだめだ。

次回の持ち込みでは、もっと最悪な編集者と出会いたい。
もっとショッキングな体験がしたい。

そうすれば、免疫がついて、多少のことでは動じない屈強な心を持てそうな気がする。



というわけで…




お題: 漫画の持込で、
「お前、それ、ひどすぎるやろ」と思う編集者の対応。
どんな対応?



・目の前で原稿を破り捨てられる

・読後、「死んだほうがいいんじゃない?」って言われる

・原稿読みながら、142回くらい舌打ちされる

・帰り際、精神科のパンフレットを差し出してくる

・アイマスクをして現れる

・どう見ても小学生

・弁当食べながら現れる

・「原稿、預からせてもらいます!」
「マジっすか!」
「ええ。飼ってるロバのえさにするんで」


-----------


俺もロバでも飼おうかな。

じゃ、お気をつけてお帰りください。


文章 CM(6) 

あたしミクシィやってた。
サナの日記読んでた。サナが、彼氏とうまくいってないって日記。
ってかもうその内容何度も電話で聞いたしメールでも聞いたし会ってるときもその話ばっかだし
わざわざまたミクでも聞かされるの?って思った。
ぶっちゃけどうでもいい内容。
サナって超ワガママで、彼氏に嫌われてるのは誰がどう見てもサナのせい。
だけど足跡ついてたし、とりあえずコメント残しとかなきゃって思った。
あたしはキーボードを打つ手を引っ込めた。
いきなりブラウザが立ち上がって、パソコンの画面をいっぱいに占領したからだ。
新しく立ち上がった真っ黒なページには、赤い色で、「殺人代行」って書いてあった。
ページの真ん中に、写真が載ってた。
はじめは、何の写真かわからなかったんだけど、よく見ると、それはバラバラになった人間。
パーティーで使うみたいな大きなお皿の上に、切断された足とか、腕とか、乳房とかペニスが山積みにされてた。
あたしはとっさに目を逸らした。
サイアク。
胃の奥がツーンとして、さっき食べたベーコンレタスバーガーとマックシェイクがせりあがってくる。
ヒロはヤンマガ読んでた。あたしのベッドの上で。
ヒロはバカで、こういうの大好きだから、見せちゃだめだって思った。
だけど閉じようと思っても、消えない。
ブラウザの×ボタンを何回押しても、そのページは消えなかった。
「どしたぁ?」
ヒロが首に手を回してくる。そのまま抱きしめてほしい。
「ん、なんでもない」
「お、なにこれ」
「わかんない、いきなり開いたの」
「すげー、なにこれ。はは。何?殺人代行サイト?この写真、本物?おい、入ってみろよ」
「やだ、ヒロやめよ?なんか怖いよ」
ヒロはあたしからマウスを奪った。
写真にカーソルを乗せると矢印が指のマークに変わる。クリック。
ページが切り替わった。
あたしは目をそらす。赤い文字で何か書いてあったけど、読みたくもない。
「なになに…、弊社は殺人代行業者です。あなたの周りに殺したい人間はいませんか?
弊社が代行します。料金は一切かかりません。わからないことがあればメールでお問い合わせください…、
ははっ、なんだこれ」
「ちょっと、気持ち悪いよ。もうやめようよ」
「おい、ためしに送ってみようぜ。えっと、名前を入力してください、か。
川瀬美樹と。
…ははっ!すげー、殺人方法まで選べるんだってよ!
えっと、頚動脈切断、撲殺。毒殺。おまえ、どれがいい?」
「やめて。お願い。ホントにつまんないから」
ヒロがあたしの顔を横から覗いた。「ミキちゃん、怒ってんの?」
あたしは椅子から降りる。「ふざけるのやめて。冗談になってないよ。こんなサイトに彼女の名前入れるって、サイテーだよ」
「ばっか。こういうの、どーせ2ちゃんの連中の仕業だろ?
よくあるじゃん。おいおい、まさか、こえーの?ミキミキちゃーん。何年生でちゅか?」
「怖くないよ。ヒロのほうが怖いんじゃないの?」
「バカ、ふざけんな」
「あー、こわいんだー。やーい」
「怖くねーよ。ナメんな」
「だったら、ヒロの名前入力すれば?」
「わかったよ」
ヒロはフォームに自分の情報を入力し直した。田島博人。二十歳。専門学生。
フォームの入力が終えると、ヒロは送信ボタンを押した。
青いバーが伸びていくけど、画面がなかなか切り替わらない。
「おまえんちのパソコンおせーよな」
「きらい!きらい。キライ!」
好き。
バカヒロにプーさん投げる。キティちゃん投げる。全部よけられる。
相手して。あたしを見て。ねえ、もう仲直りなの?さっきのケンカ、あのキスでもう解決?
目覚まし時計投げようとしてやめる。
「暴力女。おまえ一日に何回泣くの?」
ヒロはパソコンから目を離さない。
「これフリーズしてるわ」
ヒロはウィンドウズを再起動させる。
「ねえ。やっぱりちゃんとお話しよ?こんなの。ヒロのそういうとこ嫌いだよ」
「俺もお前なんか嫌いだよ」
「じゃあ、やっぱりアツコのとこ戻ればいいじゃん」
言ってから、後悔する。思わず口を両手でふさぐ。
だめだ、あたし。また言っちゃった。禁断の三文字。アツコ。
さっきもう言わないって約束したのに。
沈黙。
この沈黙、大嫌いだ。最近はこればっか。
ヒロの横顔。黙ってるヒロ。きっと怒ってる。怖い。でもかっこいい。超好き。
アツコのこと持ち出したらダメって知ってる。さっきもカラオケボックスでそれが原因で、別れる別れないの大ゲンカに発展した。
ヒロは黙ったまま。怖い。怒らないで。嫌だよ。アツコのとこなんて行かないで。もっとやさしくしてほしいだけなんだ。
「ヒロ?」
「おい、なんだよコレ?」
「え?」
あたしはパソコンの画面を見た。
パソコンを再起動させたのに、アドレスも入力してないのに、またあのサイトが開いてる。
ヘンだ。
だって普段なら、パソコンを立ち上げたら、プーさん。
プーさんが蜂蜜に手を突っ込んでる絵のデスクトップが開くはずだ。
真っ黒な画面に、赤い文字で、
「以下の内容で、あなたの注文を受け付けました。
殺害対象 田島博人 十九歳 執行内容・生首切断 執行日六月十五日
我々は責任を持って、確実に田島博人を殺します。
折り返し弊社から依頼者にメールが届きます。しばらくお待ちください」って書かれてる。
あたしたちは、しばらく黙って文章を読んだ。
あたしの目は(そしてたぶんヒロも)、「田島博人 生首切断」の文字に釘付けになっていた。
(確実に田島博人を殺します)
(確実に)
あたしは何か言おうと思ったけど、言葉が出てこない。
先に口を開いたのはヒロ。
「ははっ!」笑った。乾いた笑い。なんだかいつものヒロの笑い方じゃなかった。
「おまえ、これウイルス入ったんじゃねえか?パソコンで何見てたの?」
「ミクシィやってただけだよ。そしたらいきなりこれが開いたの」
ヒロはマウスを動かして、ブラウザの×ボタンを押した。サイトが消えない。
マウスを連打する。ヒロは「何で消えないんだよ」ってすごく小さい声で言った。
「ヒロ、もういいよ」
「おい、ウイルスだ。ミキ、ウイルスだわコレ。つまんねーの。ウイルス超うぜー」
(確実に田島博人を)
(生首切断)
「ヒロ。もうやめよ?パソコン消すね」
ヒロは机の上のペプシコーラのペットボトルをつかんで、一口飲んだ。
ヒロがマウスを貸してくれないから、あたしはパソコンを強制終了しようと思って電源ボタンを押した。
「あれ?」
消えない。ボタンを何度押しても、パソコンが落ちない。
何で?何でだろう。
あせって、あたしはコンセントを抜いた。
だけど、それでもパソコンは消えなかった。
画面はそのまま。
(確実に田島博人を)
何で?全身に汗がふきだしてくる。
あたしはヒロに抱きついた。
「ヒロ。何で?」
「ウイルスだよ。ウイルス」
「ウイルス?じゃあ、コンセント抜いたのになんで消えないの?」
「そりゃお前、ウイルスのせいだよ。おまえ、明日、電気屋持っていけよ。な」
突然パソコンから女性の叫び声がして、あたしたちは体をびくつかせた。
ノートパソコンの小さなスピーカーから聞こえてるなんて思えないくらい大きな声。
動画が再生されている。女の人が数人の男に囲まれてる。チェーンソーで腰の辺りを切断されそうになってる。
勝手に、あたしの奥歯がカタカタ鳴る。体が震える。
見なければいいのに、画面から目をそらすことができない。
女の人の上半身と下半身が真っ二つに切断されて、画面がフェイドアウトする。
次に、文字が浮かび上がる。
「先月行った活動内容です。
このように、弊社は多種多様な殺人技術を持っています。
ご興味のある方は、ぜひご相談ください。ありがとうございました」

動画の再生が終わると、ブラウザが閉じた。
いつもの、プーさんのデスクトップに戻った。
あたしたちは顔を見合わせた。
ヒロがマウスをいじる。インターネットを開く。いつものヤフーのページ。
itunesを開いたり、マイドキュメントを開いたり、ヒロは落ち着かない様子でいろいろいじくった。
「直ったな」
「わかんない」
「直ったみたいだな。ほらみろやっぱりウイルスだったんだわ」
「抱きしめて」
「はぁ?」
「いいから!」
ヒロがぎゅっと抱きしめてくれた。
とたんに、涙があふれてきた。
「なんだよ、おまえ、もしかして、今の怖かったの?」
返事ができない。
ヒロは大きな両手であたしの髪の毛をくしゃくしゃにした。

目が覚めた。夢は見てなかった。いや、見てたと思うけど、内容は覚えてない。
真っ暗な部屋。
布団にもぐる。ヒロ、コンドームつけたままだ。
バカ。でもかわいい。寝息といっしょに、ヒロの胸が膨れ上がったり、縮んだりする。
たくましい胸。のどの上で、シルバーチョーカーが鈍く光ってる。
ヒロの頬に軽くキスをする。
のど乾いたな。今何時だろう?
天井を見つめる。シミがある。あたしとヒロ、付き合いだしてもう半年だ。
昨日カラオケボックスでケンカしたことを思い出す。ごめんね。
でも、さみしかったんだ。アツコの着信残ってて、心配だったし。
でも、アツコのあのメールの意味、どういうことなの?いまだにわからない。
火曜日楽しかったねって何?火曜日に何かあったの?
ヒロ、火曜日は毎週、バンドの練習だよね。
まさか、そのときにアツコと会ってたの?
あたしダメだ。心配ばっかしてる。
だって、もともと付き合ってもらえるなんて思ってなかった。
今も、もしかして遊ばれてるんじゃないかって思ってる。
大好きな人と布団にいっしょにくるまって、寝顔を眺めるのが夢だった。今、こうして夢がかなってる。
だけどまた涙が出てくる。ヒロの髪の毛。やわらかくて、さらさらで、肩まである茶色い毛。
信じていいんだよね?
でも、あの内容が忘れられないんだ。
神様、お願い、消して。記憶を消して。
ヒロ、あたしを好きだって言って。
あたし、やっぱりヒロのことを信じられないみたい。
机の上で、ヒロの携帯がブーンブーンと二回うなって、止まった。
メールだ。アツコ。絶対アツコ。なんだよアイツ!キモいんだよ!
「あとでメールするねん♪」って書いてたし。
あたしは机に手を伸ばしてケータイを取った。
そのまましばらく悩んだけれど、ケータイを開いた。
あたしは悪くない。悪いのはアツコ。
画面が光って、まぶしくて目を細める。
「新着Eメール 一件」の文字。
見たらバレるよね?
だって新着メール、開いたら新着じゃなくなっちゃう。
心臓が、ドクン、ドクンっていってる。
悩んだけど、あたしはメールを開いた。
「殺人代行サイトです。先ほどはメールありがとうございました。
プランの変更などございませんでしょうか?
さて、今後の予定で」
画面に表示されていた文字はここまで。
メールはまだ続いてるみたい。だけど、方向キーを回して続きを読むことができない。
指が凍って、動かないから。
彼氏のケータイ勝手に開いて背徳感でいっぱいだったあたしの心臓が、
これ以上刺激はいらない助けてくれって叫んでる。
胸がひどく苦しい。息ができない。
ヒロが目を覚ましてくれなかったら、あたし呼吸困難で死んでたかもしれない。
何してんだよおまえって言って、ヒロがあたしの手からケータイを奪った。
そのまま、ケータイ閉じて、寝てくれたらよかった。
でもヒロはねぼけたまま、そのメールを読んだ。
ケータイの光がヒロの顔を反射してて、その表情がゆっくりと変わるのがわかった。
ヒロは怒ったら右の眉毛がピクピク痙攣する。
「何だよ、コレ?」
「知らない」
「ってか、おまえ、何で俺のケータイ見てんの?見んなっていっただろ?」
「だって、心配だったから。たぶん、アツ…」
ほっぺたに熱いのを感じた。中学のころ、部活の練習中にバレーボールが顔面に当たったのを思い出した。
それがボールじゃなくてヒロの手のひらだって気づくまで、時間がかかった。
脳が揺れて、奥歯が頬の裏を切って、口の中に鉄さびくさいにおいがする。
「二度と見んなっていっただろ?」
大好きな人に拒絶されるって、すごく怖い。本当に怖いことだ。
涙が出てくる。熱い涙が、頬を伝う。右のほほがジンジンする。
謝る。「ごめんなさい」鼻水だらけで、言葉になってない。
もう一度謝る。ごめんなさい。許して。もう見ませんから。
ヒロはあたしのことなんか視界に入ってなかった。
ただケータイの画面見て、ガタガタ震えていた。
「ってかさあ、なんでメールアドレス知ってんのコイツ?
俺さっき」
ヒロはそこで一瞬ツバを飲んでから、
「あの」
沈黙。
「あのサイトで」
もう一度ツバを飲む。
「ケッ、ケータイのメアド入力してたか?」と、ゆがんだ微笑みを浮かべた。
あのサイト。
ヒロは、口にしたくなかった。あたしも、そんな言葉聞きたくなかった。あのサイト。
ヒロはたぶん、あのサイトを意識に戻したくなかった。
あのサイトや、昨日の夜の一連の出来事は、あたしたちの間ではすでに終わったことだった。
どこかのバカの、タチの悪いイタズラ。2ちゃんねるの、悪意のある連中の仕業。
それで片付いた。
あのサイトが閉じて、プーさんのデスクトップに戻って、現実に戻った。
なんだかんだ言ってヒロはやっぱりビビってたし、実際あたしは本当に怖かった。
冗談で終わらせるには、ひどすぎる恐怖だった。
あのあと、あたしたちは現実に戻るための作業をした。
子供のころ真夜中お化けを見た、それをお母さんに話したら、
ただカーテンが揺らめいていただけでしょって笑われた。
シャンプーをしてるとき背後に気配を感じて、急いで泡を洗い流して振り返っても、
結局誰もいなかった。
心霊写真は結局パソコンで加工して作られてるんだって知った。
ネッシーはラジコンだった。
だから、電源を何度押してもパソコンが消えなかったけれどそれは本当にボタンが壊れてたからだったし、
コンセントを抜いても画面が消えなかったのはノートパソコンの充電池を抜いてなかったからだった。
ノートパソコンの充電池を外すと電源は切れた。
ちっとも不思議な現象でも何でもなかったんだって二人で納得しあった。
テレビをつけて、ダウンタウンのDVDを見たらもうすっかり忘れた。
エッチして、抱き合って寝た。
朝になれば、もう終わったこと。後々、面白かったねって、笑えること。処理された出来事。
でもできれば、当分は口にしたくない出来事。

メールは、まだあのサイトがあたしたちの人生で続いていることを教えてくれた。
(生首切断)
(確実に)
(確実に)

あたしの呼吸は荒くなる。息を止めてみる。油断すると、ただの涙が号泣と嗚咽に変わろうとするから。
泣いたら、またヒロに怒られるから。
「おい、答えろってミキ」ヒロが言う。なんだかセリフみたいな口調。「俺、さっき、あの…、メアド登録したか?」
ヒロは、あのサイト、とはもう言わなかった。言いたくなかったんだ。
でもヒロは本当は、こう言いたかったと思う。あたしもそういってくれることを望んでた。
(なあミキ、俺さっきあの殺人代行サイトで)
殺人。絶対に口に出せない。今そんな言葉を聞いたら、あたしはおかしくなってしまうかもしれない。
だけど、心のどこかで、その言葉を聞きたがっている自分がいる。今の状況を認めてしまって、楽になりたいんだと思う。
「してないと思う」あたしは言う。「してないよ。絶対」
わかんない。あんまり覚えてない。だって、怖かったから、画面を見たくなかった。
だけど、メールアドレスなんて、入れてなかったと思う。
それより、その前の記憶が愛しい。
あたしのベッドの上で、ヤンマガ読みながら楽しそうに笑ってたヒロを思い出す。
あのときに戻りたい。いやできればもっと前。カラオケボックスに戻りたい。
ケンカしてたけど、今よりも一億倍マシ。
いや、もっともっと前がいい。ヒロと出会って二ヶ月目に戻りたい。
ディズニーランド。帰りのバスではじめてキスしてくれた。あのときに戻りたい。

(ケータイのアドレス入れる欄あったかどうか、
パソコン立ち上げてもう一度確かめてみよっか?)

そんなこと、できるわけがない。この暗闇の中で?
腰を切断された女性の叫び声が脳裏によみがえる。

でもわざわざ立ち上げる必要はなかった。
パソコンは勝手に立ち上がったからだ。

静寂を女性の叫び声が切り裂く。
「うわぁっ!」
今度はヒロがあたしに抱きついた。
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1995 中学三年生
 ズボンのポケットに手を突っ込んで、ぱんぱんに膨らんだペニスの位置を正しい方向へ変える。正しい方向ってのはつまり、ペニスが立つべき方向、へそに向かって。だって太ももに向かって立ったら、折れてしまうからだ。しかし、なんで女の子ってこんなにいいにおいがするんだろうかと僕は不思議に思う。女の子には、独特の体臭がある。汗ばんだ、しっとりした、甘酸っぱいにおい。色で言えばピンク。だけど、授業中に勃起するなんてひどすぎる話。しかもただ、前に座ってる女の子(三年のクラス替え以来、一度も話したこともない)の髪の毛からシャンプーのにおいが漂ってきただけなのに。だけどたぶん、たぶんというより絶対、僕は家に帰ったらこのにおいを思い出してオナニーしまくるんだろう。くだらないことで勃起するたびに、ひどいときなんかは「女」って字を見ただけでも勃起して、もう自分は変態なんじゃないだろうかと僕はよく思ったけど、すぐにその悩みは消える。なぜなら僕の周りには自分と同レベルの、いやそれ以上に変態な友人が大勢いるからだ。このにおいはビダルサッスーンかな。ビダルサッスーン。ああ、女の髪の毛ってなんでこんなにいいにおいがするんだろう。
 後頭部に何かがこつんと当たる。僕は振り返る。教室の後ろのほうの席で、モッさんがにやにやしてる。モッさんの机の上にはちぎった消しゴムの断片がたまっている。すでにモッさんの机の上は雪が降ったみたいになってるのに、それでもまだモッさんは消しゴムをちぎって雪を量産し続けている。僕は微笑んだ。モッさんってば、問題も解かずにまたあんなことしてら。
モッさんが、中指を立てた。
僕は中指を立て返した。
モッさんがオマンコの形を指で作った。僕は思わずぷっと噴出してしまいそうになり、あわてて机にうつぶせた。腕の間から黒板を見ると、下山が腕組してこっちをにらんでいる。やっべー、静かにしよう。またゲンコツされそうだ。僕は下山のことがあまり好きではなかった。下山はバレーボールの顧問をやっていて、部員たちにはスパルタ教育で恐れられているのだが、そのノリを数学の授業にまで持ち込んでくる。いい先生だとは思うけど、彼の体育会系のノリにはどうしてもついていけない、宿題忘れたくらいで、すぐに殴ってくるしね。
教室は水を切ったように静かで、窓際のストーブだけがブーンと小さくうなっている。窓は曇っている。ふざけてるのなんて僕とモッさんくらいのものだった。ほかの生徒たちはみんなノートに向かって、必死に問題を解いている。そりゃそうだろうなと僕は思った。もう十二月だもんな。もう高校入試が近いんだよな。
僕はシャープペンシルを握りなおし、再び問題に取り掛かった。台形の面積を求めているうちに、いつのまにか勃起は静まっていた。
そのあとも何度か後ろから消しゴムのカスが飛んできたけど、僕は無視した。
モッさんは、ほんとはモリタサトルっていう名前だ。はじめはみんな「もりさん」って呼んでたけど、いつのまにかなまって「モッさん」というあだ名になった。僕はモッさんのことが好きだった。モッさんのエロ話は面白いし、ギャグが最高だし、志村けんのモノマネもうまい。ダウンタウンのビデオを貸してくれるし、ちんぽはでかいし、ファミコンのソフトもすぐに貸してくれるし、ほんといいやつ。あと、モッさんの家でもらう麦茶はすごくおいしい。あと、モッさんの姉ちゃんはブスだけど、妹はなかなかかわいい。姉ちゃんの悪口を言われるとモッさんはキレる。
モッさんは僕と同じく、とてつもないエロだ。僕にオナニーを教えたのは何を隠そうモッさんだ。あれは中学校に入ったばかりのころ。僕はモッさんと一緒に公園で遊んでいて、そういう話になった。モッさんが股の間にこぶしを握って動かし、「シコシコキング」という変な動作のギャグを何度もやるのだが、僕は意味がわからなかった。僕の無知に気づいたモッさんは驚いて、ジャングルジムの上でオナニーの講釈を始めた。
「いいか?こうやるんだ。おまえ、マジで知らないのか?」
モッさんはそう言って、プラスチックバットのグリップを握り締めた。僕はモッさんの指を見つめた。モッさんの爪の間は泥で真っ黒けになっていた(さっき砂場で山を作ったあと僕は水道で手を入念に洗ったがモッさんは洗わなかった)。
 モッさんはグリップを恐ろしい速さでこすった。ヒャグヒャグと変な音がした。
「ヒョエー」僕は言った。「それで、どうなるの?」
 モッさんはグリップをこすりながら、地面に向かってペッペッペッペッと四回つばを吐いた。つばは草の上に落ちた。モッさんは草の上で輝いている自分のつばを指差した。「先っちょからああいうのが出る」
「しょんべんじゃなくって?」
「精子だ」
「セーシ?」
 僕はさっそく家に帰って言われたとおりにやってみた。
その日から人生が楽しくなった。
あと疲れやすくなった。
でもなぜだか、モッさんの言ってたセーシは出なかった。それでも半年もしつこくやってると、ついに僕のちんちんの先っちょからセーシが出た。うれしくなって、あかね姉ちゃんの部屋にティッシュを持っていって報告したら平手でパッチーンと殴られた。僕の姉ちゃんはモッさんの姉ちゃんと違って美人だ。だけど乱暴で怒りっぽい。

 下山が教壇をものさしでたたいた。バシッとしなやかな音が教室に響き、生徒たちは顔を上げた。みんなもうこの音には慣れたものだが、僕はいまだに驚いて体をびくつかせてしまう。
「そこまで」下山が言った。「時間だ。ペンを置きなさい」
 張り詰めていた空気から、とたんに教室がにぎやかになる。どうだった?とか、難しかった?とか、ぜんぜん解けなかった、とか、生徒たちが雑談を始める。僕は頭を抱えた。ぜんぜん解けてない。例題を読んでいるところで時間が来てしまったのだ。4番目の設問が解けないと…、なんと三十点の大損!この設問を白紙で提出するんだからたまらない。
「ねえ」
 誰かに呼びかけられて、僕は顔を上げる。例の女の子(まあ、ビダルサッスーンとしておこうじゃないか)がこっちを振り向いている。彼女と目が合い、僕の心臓は一瞬縮こまる。
「どうだった?」ビダルサッスーンが言う。
「え、あ、その…」僕はどぎまぎする。「さ、最高だった」
「え?」
下山がもう一度ものさしで机をバーンとたたいた。教室がいっぺんに静まり返る。女の子は前を向いた。僕はがっかりした。くそ、下山のやつ!「みんな、おしゃべりは終わりだ。それじゃ後ろの席の人、プリントを集めて来なさい」
 僕の席に、モッさんがやってきた。
「どうだった?」モッさんが言った。
「ぜんぜん」僕はプリントをモッさんに差し出した。「最後の設問のとこなんか、まったく書けてない。完全にヤマが外れて…」
「バカ」モッさんが僕に耳打ちする。「…ビデオの話だよ!」
「は?」
「昨日貨してやったビデオ、どうだったんだよ」
 僕の目にモッさんの答案がちらりと見えた。プリントの端っこしか見えなかったけど、あれは間違いなく『キテレツ大百科』に出てくるコロ助のちょんまげだった。ちょんまげがあの大きさだったら、たぶんプリントの全面にかけて巨大なコロ助がのさばっていることだろう。
「こら、モリタ」下山が言う。「さっさと集めてこい。くだらんこと話してるんじゃないぞ」
「へいへい」
 モッさんはだるそうに僕のプリントをひったくった。
 下山は生徒たちから受け取ったプリントをひとつに束ねて、端っこを黒いバインダーで留めた。あの紙の束が全部燃えてなくなればいいのに、と僕は思った。
「いいかお前ら」下山が言った。「前にも言ったとおり、この小テストは重要だ。でもな、このテストがだめだったからって、落ち込むことはない。また来週の火曜日に同じ形式でテストするから、予習をきちんとしておくように。じゃあ、通常通り授業を始める。教科書の二百ページを開いて…」
「先生!」
 メガネをかけた生徒が手を挙げた。
「なんだ?」
「このテストは、内申書には関係してくるんですか?」
「んん?」
「それから、次回のテストの内容はこの問題形式と同様ですか?また、制限時間は本日と同じく二十分になりますか?あと、今回の試験ですが、試験範囲と微妙に異なる設問がありましたが?」
やれやれまたあいつだ。僕はため息をつく。「本日」だってさ。「今日」っていえばいいのに、「本日」だよ。ガリ勉の、秀才の、あいつ。毎回期末テストでクラストップの四八〇点代をたたき出す。あいつの名前はたしか…、忘れた。たしか
「山田」下山が困った顔をした。「そのあたりのことはな、あとで職員室に来なさい。教えてあげるから」
 そうそう、山田だ。僕はシャープペンシルを手の中でくるくる回した。ああいうタイプの平凡な人間は、やっぱり名前も平凡なんだな。いや、まあ勉強ができるから平凡じゃないのか。僕は内申書とか進路とか超つまんねーから、エリートコースをひた走ろうとする山田みたいなタイプをうっとうしく思っている。だけどモッさんみたいにすべてを捨てる(ウケを取るためなら衣服やパンツすら、ね)勇気もない。考えるのがめんどくさかったので、もうどうでもいいやーと思う。だから勉強したりしなかったり。完全に流れに身を任せている。
「ですがですね、設問2の台形の面積の証明についての問題ですが、これはまだ授業では進みきれていないところです。まあ、僕の通っている塾ではすでに講義は終了しているのですが」
「山田、だからあとで職員室に」
「しかし!」
山田が食い下がる。いいぞ、もっとやれ。山田、がんばれ。授業時間をどんどん削ってくれ。
 するとトツゼン、前の席のビダルサッスーンがこっちを振り向いた。んで、「山田君ってちょっといいかげんにしてほしいよねヤダよねー」みたいな感じでまゆ毛をしかめて軽くほほえんだ。僕はその笑顔を死ぬほどかわいいと思った。なんだかヨーロッパの映画に出てくる女優みたいな仕草だ、と思った。ほいで、また勃起し始める。
 この子、ぼくのこと好きなんだろうか?
 後ろから消しゴムのカスが飛んできた。

 みんな同じ緑色のジャージを着た陸上部の集団が、川の向こう側を走っている。ヨンチュー、セイ、エイ、セイ、エイ、ヨンチュー、セイ、エイ、セイ、エイ、なんて掛け声を出し合いながら。僕は、自分ももう一度あの集団に入って、昔みたいに何も考えず一緒に走りたい衝動に駆られる。一年生のころは、この川の周りをバカみたいに何周もぐるぐる走ったものだった。僕は陸上部に入っていた。卒業までずっと続けたかったのだが、三年になると強制的に退部させられた。そのことを顧問に抗議したら、走ってる暇があったら勉強しろといわれた。でも中島はまだやってるじゃないですかと反論すると、中島は勉強できるからいいんだでもお前はこないだの期末テスト三百点台だったろそれじゃどんなバカ高校でも入れないぞ、だって。そして顧問の教師はこう続けた、いいかヒロト、陸上なんてのはな、いつでもできるんだ、高校に入ったら存分にやればいいんだ。
勉強だって、いつでもできるじゃん。
モッさんは一段高い堤防のところを、バランスをとりながら歩いている。さっき道端で拾った木の枝をしきりに振り回している。
「タカギだろ?」とモッさん。「タカギカヨコ」
「モッさん、知ってるの?」
「俺、一年のころから同じクラスだもん」
「マジで?」
「なんだよヒロト、おまえ、タカギのこと好きなのか?」
「いや好きっていうか、少し気になるっていうかさ」
「カエルちゃんはどうなったんだ?」
「か、カエルちゃん?」僕は声がガマガエルの鳴き声みたいにひっくり返った。「あの子のことはもうどうでもいいんだ!」
 カエルちゃんっていうのは、ひと夏のアバンチュール。いやそんな大げさなもんでもないな。今年の夏休みに、市民プールで知り合った女の子のこと。僕とモッさんは回るプールにゴムボートを浮かべ、その上に寝そべってコーラを飲んでいた。僕たちはダイエーで買った五百円のダサいサングラスをかけてた。だけど僕とモッさんはアメリカのギャングスタ・ラッパー気分で、田舎の市民プールだけど気持ちだけはロサンゼルス。日差しを浴びて、にわか豪華ホテルでレイドバック気分。するとうまい具合に二人のホーミー(マブい女)、カエルちゃんとトカゲちゃんが話しかけてきた。彼女たちは、乗せてーとかいって勝手にボートに乗ってきた。安物のボートはもちろんひっくり返って転覆した。モッさんはお気に入りのサングラスをどこかに失くして、しばらくブツブツ文句を垂れていた。僕はカエルちゃんと、モッさんはトカゲちゃんと仲良くなった。夏が終わってもしばらくはグループ交際を続けた。もちろんカエルちゃんトカゲちゃんってのは彼女らの本名ではなくて、モッさんがつけたあだ名だ。泳ぎがうまいのでカエルちゃん、その友達だからトカゲちゃん。安易だ。モッさんはすぐにトカゲちゃんと別れた。モッさんは「捕まえようとしたけどな、しっぽが切れたんだ」とかくだらないことを言っていた。でも手をつなぐところまでは、こぎつけたらしい!僕はそれがくやしくて、自分もなんとか女の子と手をつなぎたいと思って、カエルちゃんとしばらく交際を続けた。だけどとつぜん連絡が来なくなった。原因はまったくわからなかったが、もしかすると、公園のベンチに座ってていきなりおっぱいを触ろうとしたのが原因かもしれない。僕は、モッさんに勝つにはおっぱいしかないと思ったのだ。もちろんカエルちゃんは水かきで僕のほっぺたを思いっきり殴った。

「ヒロト、でも、いいのかよ?」モッさんが堤防の上から言う。「おまえ、高校入試控えてるんだろうよ。こんな時期にのんきに恋愛か?」
「そんなんじゃないよ」
「でも、タカギカヨコかぁ。あいつ、無口だしな。俺ほとんど話したことねーんだよな」モッさんは枝を川の方に投げた。枝はくるくる回転しながら、風で煽られて遠くのほうに落ちた。水面が少しだけ跳ね上がったのが僕に見えた。
「そうだ!そういや修学旅行のとき」モッさんが言った。
「え?なになに」
「二年のときにさ。修学旅行でスキー行ったじゃん。バスでタカギと隣同士になったんだよ。で、俺乗り物弱いじゃん。長野までバスで十二時間なんて、まあムリなんだよ。で、五時間くらい走ったところで、めちゃくちゃ気分悪くなったんだよ。俺我慢しきれずに吐いちゃったんだ。タカギのひざに」
「マジで?」僕はなんだかあの子のいいにおいが汚されたみたいに思って、少しモッさんが嫌いになった。「んで、どうなったの?」
「あの子さぁ、文句ひとつ言わず、ハンカチ貸してくれたんだよな」
 モッさんは堤防からジャンプした。堤防はけっこう高くなってたけど、モッさんはひざを曲げて器用に着地した。まるで猫みたいだ、と僕は思った。
「それで、すぐに先生呼んでくれたんだよな。ふつう自分のゲロ拭いてからだよな?でも俺のことまっさきに気づかってくれてさ。いい子だなって思ったよ」
「す、好きなのか?」
「え?」
「モッさんは、あの子が、す、好きか?」
「ばか、あほ、ヒロト、あほか?修学旅行のときいっぺん話しただけだってのに」モッさんは僕の肩を抱き寄せる。「おいヒロ、それよりよ、昨日貨してやったエロビデどうだったよ?ん?」と、僕の股間をまさぐる。
「わ!ちょ、モッさん!やめてくれ。ヘンタイ!やめろってば」
「飯島愛の裏だぜ。おまえ見たことないだろ。極秘ルートで仕入れたんだからな。さっさと返せよ」
「誰が返すか!」
 僕たちはげらげら笑いながらしばらくその場でふざけあった。

家に帰ると、まずお風呂に入る。そしてごはんを食べる。ここまではいつもと同じ。でも、こっからが違う。今までみたいに、バラエティ番組を見て笑い転げるなんてできない。中学三年生の冬。僕は不幸だ。ダウンタウンの番組が見れなくなるくらいなら、受験なんかどうだっていい。だけど、居間で怠けてると、口うるさいオヤジに勉強しろって怒鳴り飛ばされるわけ。
僕は階段を駆け上がって、自分の部屋に飛び込んで鍵をかける。しばらくすると母さんがドアをノックする。ここまでも、いつもと同じ。
「ヒロト、あんまり気にしちゃだめよ、父さんはあんたのことを思っていってるんだからね」
「わかってるよ!」
でも、なんで勉強しろって言われると腹が立つんだろう?今からやろうとしてたのにさぁ。ちょっとテレビ見てから始めるつもりだったのに。
僕は仕方なく机に向かう。今日の試験がさんざんだったから、そのことにも腹が立ってるのかもしれない。ああ、なんで僕はこんなにバカなんだろうか?誰かの脳みそと交換してほしい。知らない間に股間をいじりだしてる僕。モッさんに借りたエロ本でも読もうかな?外国の無修正のやつ。
ふと思いついて、引き出しを開ける。ガラクタを引っかき回して、僕は一枚の写真を探し出す。この写真は、今年の春の修学旅行で撮ったやつ。廊下に張り出されてたのを買った。京都の下町をバックに、モッさんが僕にキスをしようとしているという哀れな写真。モッさんはどうでもいい。ここ。ほら、ここ。高木さんだ。高木さんが小さく写ってる。このころの彼女はショートカットだ。彼女はだんご屋の前で何人かの友達と座ってる。
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